第8章ー1
期末試験が終わってから、およそ半月。ソワレル魔法学園では一学期の終業式が執り行われていた。
自分達は今、大聖堂を思わせるような広く荘厳な会場に集められている。高い天井には煌びやかな装飾が施され、壁際には巨大な魔晶灯が等間隔に並んでいた。まるで貴族達の舞踏会でも開かれそうな空間だ。
『それでは、リーフ・エンドレッド理事長よりご挨拶をお願い致します』
司会役の教師がそう告げると、会場の空気がわずかに引き締まる。
式は滞りなく進行しており、ついにリーフさんの挨拶の番が回ってきたようだ。リーフさんは教師から魔導拡声器――前世でいうマイクのような道具を受け取ると、生徒達の背丈を遥かに超える高台へと上がっていった。
今回集まっているのは魔法学園の生徒だけではない。一般学園に通う貴族子弟達も同席している為、会場内の人数は凄まじいことになっていた。
当然ながら、前列には格式高い貴族生徒達が整然と並び、その後方に魔法学園の生徒達が配置されている。しかも一年生は最後尾付近だ。
そのせいで、こちらから見るリーフさんの姿はとんでもなく遠い。前世の自分だったら、仮に高台の上に居たとしても顔なんてまともに見えなかっただろう。
もっとも、この世界には魔晶映像機という便利な代物が存在する。会場後方に設置された巨大な映像板には、リーフさんの顔がしっかり映し出されていたので、見えないということはなかった。むしろ妙にドアップで映されているせいで、逆に視線のやり場に困るくらいだ。
『えー、諸君。約四か月半、本当にご苦労だったね』
会場全体に響き渡る落ち着いた声。ざわついていた生徒達も自然と静まり返る。
『特に魔法学園の新入生諸君は、覚えることも多く、厳しい授業や任務に追われ、辛い日々を過ごしたことだろう。中には、その過酷さに耐え切れず学園を去った者も少なくない。それでもなお、君達はここまで生き残り、この場に立っている。私はその努力と忍耐に、心から敬意を表したい』
普段は飄々としているリーフさんだが、こういう場では理事長らしい威厳がしっかりある。言葉にも不思議と説得力があった。
『だが、忘れないでほしい。これから先も困難は幾度となく君達の前に立ちはだかる。だからこそ、慢心せず、自分自身の課題と向き合い、次に向けた準備を怠らないようにしてほしい。次学期は、今学期以上に厳しいものになるだろうからね』
そこから先も、リーフさんの話は続いていった。
魔法学園の各学年への言葉。一般学園の生徒達への激励。教師陣への感謝。夏休み期間中の注意事項。果ては最近の王都情勢にまで軽く触れていた。
気付けば三十分近くが経過していたが、不思議とそこまで苦痛ではない。
前世の校長先生の話みたいに、同じ内容を延々と繰り返す訳ではなく、話題ごとに内容がきちんと変わっていたからだろう。もしこれが立ったまま聞かされていたら地獄だったかもしれないが、椅子に座れているだけまだマシだった。
『――さて、私からの話は以上だ。長くなってしまって申し訳ないね』
最後にリーフさんは軽く肩を竦め、穏やかな笑みを浮かべた。
『夏休みを迎える諸君は、どうか思う存分楽しんでくれたまえ。もっとも、“危険のない範囲で”だがね。それでは、また元気な姿で会える日を楽しみにしているよ』
会場のあちこちから拍手が沸き起こる。
『リーフ・エンドレッド理事長、ありがとうございました。以上をもちまして、ソワレル学園・ソワレル魔法学園、第九十八回一学期終業式を終了致します。この後は各自教室へ戻り、担当教師の指示に従ってください』
司会教師の締めの言葉と共に、長かった終業式はようやく終了した。
そして自分達は、人混みに紛れながらぞろぞろと教室へ向かって歩き始めるのだった。