「お前ら、とっとと席に着け。今期最後のホームルームだ。手短に済ませるから、ちゃんと聞いとけよ?」
終業式を終えて教室へ戻ると、すぐにコールスタッシュ先生の話が始まった。
相変わらず、面倒臭そうな表情を一切隠そうともせず、気怠げな様子で話を進めている。最後ぐらいはもう少し教師らしくビシッとしてほしい気もするが、今さらそこに期待するのも違う気がしてきた。
「前にも言った通り、期末試験に落ちた奴らは基本的に学園へ残って補習授業を受けてもらう。対象者は覚悟しとけよ」
「はあ……あの話、マジだったのかよ……」
「ワンチャン冗談だと思ってたんだけどなぁ……」
先生の言葉に、教室のあちこちから重たい溜め息が漏れ出る。声の主はもちろん補習組の連中だ。
そりゃ落ち込むのも無理はない。せっかくの長期休暇が、ほぼ丸ごと補習で潰れるのだから。せめて数日くらい自由な時間が欲しいと思うのが普通だろう。
「だが、補習の成績次第では最大一週間の外出許可を出してもいいと、理事長から提案があった」
「……マ、マジっすか!?」
「ああ。うちの理事長の寛大さに感謝しとけよ?」
「は、はいっ! 頑張ります!!」
その一言で、さっきまで死んだ魚みたいな目をしていた補習組の連中が一気に色めき立つ。
なるほど。リーフさんはただ優しいだけじゃない。飴を用意してやることで、生徒達のやる気まで引き出しているのだ。
補習組に希望を持たせつつ、勉強への意欲も上げる。実に理にかなっている。流石は理事長だ。
「そんで、見事試験に受かって夏休みを満喫できるリア充野郎共にも、一つだけ言っとくことがある」
「……」
今度は話題がこちら――合格組へ向けられる。
だが、先生はなぜかこちらを妙に恨めしそうな目で見ていた。最初は理由が分からなかったが、すぐに察する。
恐らく、先生達は夏休み中も補習授業の対応で学園に残らなければならないのだろう。
そういえば前世でも、学校の教師は長期休暇中も普通に出勤していると聞いたことがある。この世界の教師も似たようなものらしい。
……なるほど。つまり、自分達が休みを満喫するのが気に食わないわけだ。
いや、気持ちは分からなくもないけど。
「いいか? 外は危険だらけだ。魔物だけじゃねぇ。盗賊、詐欺師、自然災害――命に関わる危険なんざ腐るほどある。だから羽目を外すのも程々にしとけよ?」
「はい!」
教室中に返事が響く。
先生の言っていること自体は至極真っ当だ。この世界は前世みたいに治安が保証されている訳じゃない。少し街道を外れれば、普通に命の危険がある。
「言っとくがな? 俺達の知らねぇ場所で問題起こされても、こっちは対応しかねるからな? なんかあったら騎士団でも冒険者でも頼れ。最悪、自分らでどうにかしろ」
そこまではまだ良かった。
だが、先生の愚痴はそこから加速していく。
「俺達をぜっっったい頼んじゃねぇぞ!? ただでさえ休み少ねぇのによ、テメェらの自由行動まで管理してられるかってんだ! ぜっっってぇ問題持ち込んでくんなよ!? 分かったな!? 返事は!?」
「は、はいっ!?」
圧が凄い。
というか、もはや注意喚起というより半分脅しである。言っていることは理解できるが、言葉の端々に私怨と殺意が滲み出ている気がしてならない。
補習対応で休みが潰れる教師陣のストレスが、今この場で爆発しているのだろう。
そんなこんなで、コールスタッシュ先生の愚痴混じりのホームルームはしばらく続き――
こうして、自分達の一学期は無事終了を迎えるのだった。
――転生勇者が死ぬまで、残り3962日。