翌日――ついに夏休みが始まった。
自分とミオは、一度実家のあるリーヴ村へ帰省するため、学園前の停留所で朝一番の馬車を待っていた。
「マヒロは実家に帰らないんだよな?」
「うむ。拙者の家は少し離れた孤島にある故、帰省するだけでも中々骨が折れるでござる。それに、来週の予定を考えるなら学園に残っていた方が都合が良いのでな。二人としばらく会えぬのは寂しいでござるが、ソンジ殿も居るし大丈夫でござるよ!」
そう言って笑うマヒロは、自分達を見送りに来てくれていた。
恐らく朝練の時間と重なっていたから、そのついでなのだろう。
話を聞く限り、彼女の実家はかなり遠方の孤島にあるらしい。帰るとなれば船の手配や移動だけでも一苦労とのことで、余程の用事がない限り長期休暇中も学園に残るつもりだという。
まさかマヒロが島育ちだったとは思わなかった。
てっきり、どこかの武家や剣術道場の娘か何かだと思っていたのだが。まあ、この独特すぎる口調を使う一族なんて聞いたことがないし、今更驚くことでもないか。
それはさておき、彼女の話によればソンジさんも学園に残るらしい。あの人の場合、休暇より研究優先なのだろうな。「休みほど研究が捗る期間はない」とか本気で言いそうだ。
「それなら、マヒロも一緒にウチへ来ればいいのに。どうせ来週にはまた皆で遊びに行くんだしさ」
「そうだな。神父様達も歓迎してくれるだろうし、良かったらどうだ?」
ミオは以前から、マヒロをリーヴ村へ連れて行きたがっていた。
来週は皆で海へ遊びに行く予定もあるし、せっかくならそのまま一緒に過ごそうという考えなのだろう。
自分としても異論はない。
学園の友人を故郷へ招待する機会なんて滅多にないし、神父様やエリカさんもきっと喜ぶはずだ。
しかし、マヒロは申し訳なさそうに首を横へ振った。
「二人の誘いは本当に嬉しいでござる。だが、今回は遠慮しておくでござるよ」
実は昨日も同じように誘っていたのだが、その時も彼女は断っていた。最初は自分もミオも驚いたものの、どうやら彼女なりに考えがあるらしい。
「拙者、期末の実技試験で己の未熟さを痛感したでござる。故に、もっと鍛錬を積まねばならぬ。長期休暇中も師範達は学園に残るようでござるし、皆との約束の日までは修行に励むつもりでござるよ」
その理由を聞き、自分達は納得した。
休みの日ですら修行を優先する辺り、実にマヒロらしい。
期末試験を突破したにも関わらず満足していないというのも、彼女らしいと言えば彼女らしい。
「……そっか」
「なら仕方ないね。頑張ってね、マヒロ!」
「うむ! ……あっ、だが、もしまた機会があるなら改めて誘って欲しいでござる。拙者も二人の故郷には一度行ってみたいと思っておる故な」
「もちろん! 夏休みはまだ一ヶ月もあるんだし、今度帰る時は絶対来てよ!」
「その時は必ず!」
今回の誘いは断られてしまったものの、いつかリーヴ村へ行ってみたいと語るマヒロに、ミオは嬉しそうな笑顔を向けていた。
彼女の言う通り、夏休みはまだ始まったばかりだ。
機会なんて、これからいくらでもある。
「おっ、馬車が来たみたいだぜ」
遠くから車輪の音が聞こえ、停留所へ一台の馬車が近づいてくる。
「じゃあ、私達行くね。またね、マヒロ!」
「うむ! 二人共、道中気を付けるでござるよ!」
互いに別れの挨拶を交わし、自分達は馬車へ乗り込んだ。
ゆっくりと動き出す馬車の窓越しに、マヒロがこちらへ大きく手を振っている姿が見える。
――こうして、自分達の夏休みが始まった。
―転生勇者が死ぬまで、残り3961日。