「えっ?」
「何? どういうこと?」
あまりにも突然なサダメの発言に、皆が困惑の表情を浮かべる。
――当然だ。私自身も、頭が追いついていなかった。
「おい、ちょっと待てよ!?」
「ラエル?!」
困惑する空気の中、ラエルだけが怒りを露わにしてサダメへ歩み寄る。
嫌な予感が背筋を走る。
――まずい。また昨日みたいにケンカになる。
「突然帰ってきたと思えば、訳のわかんねぇこと言いやがっ――てっ!!」
「ぐっ!?」
「ッ?! ラエル、ダメ!!」
案の定、ラエルはサダメの胸ぐらを掴み、詰め寄った。
必死に止めようとするが、振りほどくことすらできない。
せっかくサダメが戻ってきてくれたのに。
ここでまた争えば、皆の心はさらにバラバラになってしまう。
――そんなの、絶対に嫌だ。
「ごめん」
「っ?!」
思いがけない一言だった。
「言いたいことはわかる。けど、時間がないんだ。頼む――俺の話を聞いてくれないか?」
その声は穏やかで、真剣だった。
昨日までの彼とは、まるで別人のような眼差し。
けれど――
「……ふざけんなよ!?」
ラエルの怒りはまだ収まらない。
胸ぐらを掴む手に、さらに力が込められる。
「昨日まで“死にたい”とか言ってたやつが、今度は皆で村を出ようだぁ?!
ふざけんのも大概にしろよ!
てめぇの自殺願望に、皆を巻き込む気かよ?!」
「ラエル、落ち着いて!!」
怒声とともに、サダメの身体が強く揺さぶられる。
止めようとしても、力でも言葉でも届かない。
――このままじゃ、本当に殴り合いになる。
その時。
「違う!」
「ッ?!」
サダメの声が、場の空気を切り裂いた。
怒りではない。けれど、確かに揺るぎない強さがあった。
ラエルの腕から、わずかに力が抜ける。
「この村は、じきに捨てられる。
村を捨てるってことは、俺達も用済みだ。
奴らは、間違いなく俺達を皆殺しにしに来る」
沈黙が落ちる。
「だから、その前に逃げよう。
死にに行くためじゃない。――生きるために!!」
「ッ……」
その言葉は、確かに胸に響いた。
少なくとも、私の心には深く刺さっていた。
昨日まで死を望んでいた彼が、
今は“生きる”と叫んでいる。
――それが、何より嬉しかった。
「……けど……」
ラエルの声は弱まっていた。
怒りではなく、迷いの色。
村からの脱出。
それがどれほど困難か、年長者である彼が一番理解しているのだろう。
責任と恐怖と現実が、彼を縛っている。
だからこそ――
「脱出する方法、あるんだよね?」
私が問いかける。
「ッ?! ミオ、おまえ……」
ここで踏み出さなければ、何も変わらない。
「ああ!」
サダメは迷いなく頷いた。
その瞳に、嘘の色はない。
「わかった。私は信じるよ」
「なっ?! ミオ、なんで……」
「だって……」
そして、私は微笑む。
「今のサダメの目、
“生きたい”って言ってる目だもん」
「ッ……」
昨日まで、死んだようだった瞳。
今は確かに、未来を見ていた。