「どう? 気持ちいい?」
「……は、はい……」
エリカさんに背中を優しく洗われている自分は、気が気ではなかった。さっきの生理現象がまだ完全に収まっていない状況で、柔らかい手が肌を滑るたび、身体がびくっと反応してしまう。もし前を向かれたら、正気を保っていられる自信がなかった。多分、今日のこの出来事の後、しばらくエリカさんの顔をまともに見られなくなるだろう。
それでも、洗ってもらっている感触自体は本当に気持ち良かった。誰かに身体を洗ってもらうなんて、この世界に転生して以来、いつぶりだろうか。五歳くらいの頃以来かもしれない。正直、父にあちこち弄られたときは不快で仕方なかったが、今思えばあれも悪くない思い出だったのかもしれない。いや、決して変な意味ではなく。
「……ふふっ」
「ど、どうかしたんですか?」
そんな過去をぼんやり思い出していると、エリカさんが急に小さく笑い出した。油断している間に、自分の下半身を見てしまったのだろうか? 嫌な予感が胸をよぎる。
「いや、なんか不思議だなーと思ってね」
「? どういう意味ですか?」
「だって、この前まであんなに小さかったのに、気がついたら随分大きくなってるんだもの。なんだか感慨深いわ」
「エリカさん……」
照れ笑いを浮かべながら理由を聞くと、彼女はただ、自分の成長を不思議に感じていただけだったらしい。十年前の自分は、本当に小さくてエリカさんの腰くらいの身長だった。それがいつの間にか、彼女とほとんど変わらない背丈になっている。子供の成長は本当に早いんだなと、改めて実感させられた。自分では気づきにくい変化だが、親の立場なら毎日そんな感慨を抱くのかもしれない。残念ながら自分は前世も今世も、結婚はおろか彼女すらできたことがないので、その気持ちはまだ想像の域を出ない。
「……ほんっと、大きくなったね。サダメ」
「ッ!?」
感傷に浸っていたエリカさんが、突然後ろから自分を優しく抱きしめてきた。素肌同士ということもあり、彼女の体温が背中にじんわりと染み込んでくる。柔らかい胸の感触が肩甲骨の辺りに当たって、心臓が激しく鳴り始めた。これが母親の温もりというものなのだろうか。 そういえば、この感覚も久しぶりだ。あの頃の母と同じような優しいぬくもりを、エリカさんから感じる。照れくささと心地よさが混じり合って、こういうのもたまには悪くないなと思ってしまう自分がいた。
「さて、それじゃあ今度は前の方を洗うね?」
「……え?」
ほんの少しの間だけ、その温かみを堪能した後、エリカさんが手を離して自分の正面に回り込んできた。今、「前の方」と確かに言ったよな? それってつまり……
「ちょ、ちょっと待ってくださいエリカさん!? 前は自分で……」
「あら?」
「あっ!?」
思考が追いつくよりも早く、油断しきっていた自分は両手を離した状態で彼女の視界に晒されてしまった。完全に丸見えだ。
「……ふふっ。そうよね。サダメも男の子だもんね。そっちの方も大きくなっちゃって」
「……うっ、うぅ……」
最悪の予感が的中した。エリカさんは愛想の良い笑顔でなんとか誤魔化してくれたが、自分はこの羞恥を一生忘れられないだろう。おまけになんか上手いこと言われたし。
「けど、こんなおばさんの身体でも反応してくれるなんて。嬉しいわ」
「……」
おまけにそんな茶化しまで飛んでくる。もういっそのこと、この場で誰かに殺してほしいと本気で思った。あとそのセリフ、絶対エロ漫画でしか聞いたことないやつだろ……。
顔を真っ赤にしたまま、自分はただ小さくうめくことしかできなかった。
―転生勇者が死ぬまで、残り3958日。