転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー9

 リーヴ村を出て二日後。俺達は、ようやく目的地であるシッター村の近くまで辿り着いていた。

 

 「私、海って初めてだから楽しみだなー!」

 

 「ああ。そうだな」

 

 目的地が近づくにつれ、ミオは落ち着きなくそわそわしていた。窓の外を何度も覗き込み、子供のように目を輝かせている。

 

 そう言えば、自分もこの世界の海を見るのは初めてだった。前世では海の近くに住んでいた事もあり、海は割と身近な存在だった。しかし、この国は広大な土地の大半を山や森が占めている。海辺の街へ向かおうとしない限り、海を見る機会など滅多にないのだろう。

 

 「見て見てサダメ! 海が見えてきたよ!」

 

 いつも以上にテンションの高いミオが、馬車の窓から身を乗り出す勢いで海の方を指差した。彼女に促され、自分もそちらへ視線を向ける。

 

 「どれどれ……おおっ!」

 

 思わず感嘆の声が漏れた。

 

 そこには、どこまでも広がる青の世界があった。

 

 太陽の光を受けた水面はきらきらと輝き、まるで巨大な宝石のように眩しい。まだかなり距離があるはずなのに、それでも圧倒的な存在感を放っていた。

 

 潮風も微かに届き始めているのか、空気にはほんの少しだけ塩の匂いが混じっている気がする。久しく忘れていた感覚に、胸の奥が妙に懐かしくなった。

 

 「わぁ……すごい……!」

 

 ミオは窓に張り付くようにして海を眺めていた。その横顔には、隠し切れない興奮と感動が浮かんでいる。

 

 「おいおい、そんなに身を乗り出したら危ないぞ」

 

 「だ、だって! 本当に海だよ!? 絵本とかでしか見た事なかったんだから!」

 

 興奮気味に振り返るミオ。その反応があまりにも微笑ましくて、思わず苦笑してしまう。

 

 普段はどちらかと言えば大人しく、控えめな彼女だ。そんなミオがここまで感情を露わにしている姿は珍しい。よほど楽しみにしていたのだろう。

 

 「あっ! サダメ、あれじゃない!? シッター村!」

 

 ミオが今度は海の手前に広がる街並みを指差した。

 

 海岸沿いに並ぶ建物。白い壁や赤い屋根の家々。遠目からでも活気があるのが伝わってくる。恐らく、あそこが目的地のシッター村で間違いない。

 

 「わあぁっ! 本当にここまで来ちゃったんだー!」

 

 ミオは嬉しそうに声を上げた。

 

 「皆、もう着いてるかな!? 早く会いたいなぁ……うふふ!」

 

 海が見えた時以上にテンションが上がっている。椅子に座っているのも落ち着かないのか、足をぱたぱたと揺らしていた。

 

 そんな彼女を見ていると、不思議とこちらまで楽しい気分になってくる。

 

 まるで、娘を連れて旅行に来た父親のような気分だ。

 

 ……まあ、結婚した事も子供を育てた事もないから、本当の親心なんて分からないのだが。それでも、はしゃぐミオを見守っていると、自然と頬が緩んでしまう。

 

 「お客さん達、シッター村は初めてかい?」

 

 不意に、馬車を操っていた御者の男性がこちらへ声を掛けてきた。

 

 「は、はい。そうですけど……」

 

 流石にここまで露骨にはしゃいでいれば、初めてだと分かるのだろう。少しだけ気恥ずかしくなる。

 

 「この時期は海水浴シーズンだからねぇ。最近は初めて海を見に行くって客をよく乗せるんだよ」

 

 「へぇー、そうなんですか」

 

 「今の時期のシッター村は観光客で賑わってるからね。かなり楽しいと思うよ」

 

 「やっぱり、皆考える事は同じなんですね」

 

 「ははは、違いない」

 

 御者の男性は愉快そうに笑った。

 

 「ただ、客が多い分、宿の確保は早い者勝ちだ。まずは宿を押さえた方がいいかもしれないね」

 

 「なるほど……分かりました。ありがとうございます」

 

 「どういたしまして。せっかくの旅行だ。思う存分楽しんできな」

 

 「はい!」

 

 ミオは元気よく返事をする。

 

 その後も御者の男性からシッター村の名物や人気の海岸、注意した方がいい場所などを聞きながら、俺達を乗せた馬車はゆっくりとシッター村へ向かって進んでいくのだった。

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