「色々ありがとうございました」
「あいよ。また乗ってくれよ」
シッター村の入り口に到着した俺達は、御者の男性へ感謝を告げた。
旅の途中で交わした世間話。シッター村についての情報。そして宿の確保に関する助言。どれも非常に助かった。
走り去っていく馬車を見送りながら、改めて心の中で礼を言う。
御者の人達って、本当に感じの良い人が多い気がする。
前世で言えばタクシー運転手に近い職業なのだろうが、こうして各地を行き来し、多くの人間と接しているからこそ、自然と会話術や気遣いが身に付くのかもしれない。
ただ客を目的地へ運ぶだけではなく、旅人の不安を和らげたり、土地の情報を教えたりするのも仕事のうちなのだろう。
「よし。それじゃ、行くか」
「うん、そうだね」
馬車の姿が完全に見えなくなったのを確認した後、俺達は皆との集合場所を探すため、シッター村の中へと足を踏み入れた。
村へ入った瞬間、潮の香りが一気に濃くなる。
海風が通りを吹き抜け、どこからか魚を焼く香ばしい匂いまで漂ってきた。港町らしく、道には漁師らしき男達や観光客の姿が多い。露店も数多く並んでおり、貝細工や干物、見たことのない海産物などが所狭しと並べられていた。
「えーっと……たしか、このマークみたいなのを探せばいいんだよね?」
ミオが周囲を見回しながら呟く。
「ああ。ギリスケの話だと、村に入ってすぐ見える場所にあるって言ってたけどな」
俺達は集合場所の目印を探しながら、入り口付近を歩き回っていた。
このシッター村には、魚をモチーフにした独特のシンボルが至る所に設置されている。木の看板や石柱、建物の装飾にまで魚の紋様が刻まれており、どうやらこの港町を象徴する印らしい。
詳しい仕組みは知らないが、交易関係ではこのシンボルが信頼の証として扱われているのだとか。恐らく、国から正式に許可を受けた商人や施設である事を示しているのだろう。
……まあ、半分くらいは推測なのだが。
ちなみに、今回の旅行先を決めたのはギリスケである。
元々、俺達はこの辺りの土地勘がほとんど無かった。その一方で、何故かギリスケだけは妙に各地の遊び場や観光地に詳しかったため、自然と今回の計画もあいつ主導で進んでいたのだ。
もしかすると、リーフさんみたいに旅好きなのかもしれない。
あいつ、何だかんだアウトドア派っぽいしな。授業中は適当にサボっているくせに、遊びに関する情報収集能力だけは異様に高い。
ほんと、その行動力を少しでも授業や任務に活かしてくれれば助かるのだが。
……まあ、無理だろうな。
なんとなくだが、あいつはそういう生き物な気がする。
「にしてもギリスケの奴、“魚のシンボルがある場所”とか言ってたけど、こんなのそこら中にあるじゃねぇか」
周囲を見回しながら思わず文句が漏れる。
「あはは……。“大きくて目立つ場所”って言ってたよね? どこだろう……」
ミオも困ったように苦笑した。
実際、村中どこを見ても魚のマークばかりだ。これでは目印として機能しているのか怪しい。
「おーい! サダメー! ミオー! こっちでござるよー!!」
「……あっ! マヒロ!?」
聞き覚えのある元気な声が響いた。
反射的にそちらへ顔を向ける。
すると少し先――広場の中央に建てられた小さな塔の上で、大きく手を振っているマヒロ達の姿が見えた。
塔の頂上には、巨大な魚のシンボルが堂々と彫られている。
なるほど。
たしかに、あれだけ派手なら集合場所としては分かりやすい。
シンボルがあちこちにあるせいで逆に迷わされたが、結果的には一番目立つ場所だったらしい。
「もう、最初から“塔の前”って言えよな……」
思わず小さく愚痴を零しながらも、俺とミオは顔を見合わせて苦笑する。
そして、ようやく合流できた安堵感を覚えながら、手を振るマヒロ達の元へと歩き出した。