「ソンジさんも来てたんですね。てっきり研究とかで忙しいものだと思ってましたよ」
「私だって、たまには息抜きくらいするさ。せっかく外に出られる数少ない機会なんだ。皆が行くっていうなら、私も参加しないと損だろう?」
「それなら誘って正解だったでござるな!」
「その節は本当にありがとう、マヒロ。感謝しているよ」
「礼には及ばぬでござるよ。遊ぶなら皆で遊んだ方が楽しいでござろう?」
『うんうん! 今日は目一杯楽しもうよ!』
マヒロ達と無事に合流した後、俺達は他愛のない会話を交わしながら今夜泊まる宿を探していた。
本来、この旅行の参加者は五人の予定だった。しかし、マヒロがソンジさんにも声を掛けた結果、気付けば六人での旅行になっていた。
けれど、それで良かったのかもしれない。
ソンジさんは普段、研究や実験に追われている。学院内でも指折りの研究馬鹿として有名なくらいだ。そんな彼女だからこそ、たまにはこうして肩の力を抜く時間も必要なのだろう。
何より、自分達だって授業や任務から解放されたからこそ、この旅行を計画したのだ。
皆で遊ぶという目的に、立場の違いなんて関係ない。
「……」
「? どうした、ミオ?」
「えっ!? う、ううん! なんでもないよ!?」
「そうか?」
「……やっぱり来てくれてないか」
「ん?」
会話の途中、ミオが何度も周囲を見回している事に気付いた。
誰かを探しているようにも見える。
気になって声を掛けてみたものの、彼女は慌てたように笑顔を作り、首を横に振った。
最後に何か小さく呟いていた気もしたが、人混みのざわめきに掻き消されてよく聞き取れなかった。
知り合いでも探していたのだろうか。
それとも、慣れない人混みに少し疲れているだけかもしれない。
「にしても、今日の宿どうするっすかねぇ」
ギリスケが頭の後ろで手を組みながら空を見上げた。
「格安の宿なんて、この時期ならもう埋まってそうじゃね? 俺達みたいな学生に高級宿なんて無理だし」
「確かにな」
俺も周囲を見回しながら頷く。
港町へ向かう途中で聞いた話では、この時期のシッター村は海水浴客で大混雑するらしい。
実際、村の中は想像以上の賑わいを見せている。
「これだけ人が多いと、最悪テント借りて野宿かもなー」
「それはそれで面白そうだけどな」
「予定を立てるなら、もう少し早めに動くべきだったかもしれないな」
『しょうがないよ。みんな試験とか任務とか色々あったんだし』
フィーが苦笑しながら肩を竦める。
『旅行の準備だって必要だったんだからさ』
「拙者は野宿でも全然構わぬでござるよ!」
マヒロが元気よく手を挙げた。
「夜は涼しいでござるし、海風もあるでござろう? きっと気持ちいいでござる!」
「海辺でキャンプか……」
ソンジさんが少し考えるように顎へ手を当てる。
「それはそれで面白そうだね。いっそのことバーベキューでもやるかい?」
『ばーべきゅー?』
聞き慣れない言葉にフィーが首を傾げる。
「バーベキューっていうのはね――」
ソンジさんが説明を始める。
その様子を見ながら、俺は少し後ろを歩いていた。
皆が楽しそうに会話している光景を眺めていると、不意に胸の奥が温かくなる。
同時に、どこか懐かしい気持ちも込み上げてきた。
そういえば――友達と泊まりがけで遊びに行くなんて、いつ以来だろう。
前世の記憶を辿る。
キャンプをした経験はない。
けれど、小学生の頃に友達の家族と一緒にペンションへ泊まりに行った事があった。
夜にはバーベキューをして。
花火をして。
皆で騒ぎながら遅くまで起きていて。
今思い返しても、本当に楽しかった記憶だ。
あの頃の自分は、もっと活発だった気がする。
休日になれば外へ飛び出して、友達と走り回っていた。
今の自分からは想像もつかないくらい、明るい子供だった。
なのに――。
中学生になる頃には、いつの間にか外へ出る事が減っていた。
気付けば家の中で過ごす時間が増え、人付き合いも最低限になり、完全なインドア派になっていた。
何がきっかけだったのだろう。
どうして、あんなにも変わってしまったのだろうか。
もし昔に戻れたなら。
もう一度あの頃の友達と遊べたなら。
また外を駆け回って、馬鹿みたいに笑い合えたなら――。
そこまで考えた時だった。
ふと、胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われる。
懐かしい思い出のはずなのに。
楽しかった記憶のはずなのに。
どうしてだろう。
昔の事を思い出しているだけなのに、妙に悲しくなってきた。
まるで、もう二度と戻れないものを見てしまったかのように。
俺は誰にも気付かれないよう、小さく息を吐いた。
潮風が頬を撫でていく。
しかし、その涼しさは胸の奥に生まれた寂しさを消してはくれなかった。