転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー12

 「そ・れ・よ・り♪ サダメおにいちゃん、ソンジになにか言うことなぁい?」

 

 「言うこと?」

 

 前世の思い出に浸っていたところ、不意にソンジさんが妙に芝居がかった妹口調で話しかけてきた。

 

 どうやら何か言うべきことがあるらしい。

 

 しかし、急にそう言われても全く心当たりがない。

 

 研究の話でもないだろうし、旅行の計画についてでもなさそうだ。

 

 一体何のことだろうか。

 

 「チラッ、チラッ」

 

 「んー?」

 

 ソンジさんは意味深にこちらを見ながら、自分の姿をアピールするような視線を送ってくる。

 

 だが、何を察すればいいのかさっぱり分からない。

 

 「……はぁ」

 

 とうとう彼女は大きなため息を吐いた。

 

 「まさか君が、ここまで鈍感だとは思わなかったよ」

 

 「えっ!? 何がですか!?」

 

 「そこからなのかい……」

 

 ソンジさんは呆れたように額へ手を当てる。

 

 そして、わざとらしくミニスカートの裾をひらりと揺らした。

 

 まるで「ここに答えがありますよ」と言わんばかりの動きだったが、それでも俺には意味が分からない。

 

 むしろ分からないままなので、どう反応していいかすら困ってしまう。

 

 「おいおいおい。分かってねぇなぁ、サダメ君よぉ」

 

 「だから何なんだよ?」

 

 いつの間にか隣に来ていたギリスケが、やれやれと言いたげな顔で肩を竦めた。

 

 その態度が妙に腹立たしい。

 

 事情を説明するでもなく、分かって当然みたいな顔をされても困るのだが。

 

 「よく見ろって。普段見られない女の子達の姿を」

 

 「普段見られない姿?」

 

 「そうそう」

 

 ギリスケは得意げに頷く。

 

 「流石ギリスケ君」

 

 ソンジさんも満足そうに腕を組んだ。

 

 「君は中々女心を理解しているようだね」

 

 「当然っすよ」

 

 ギリスケは前髪をかき上げながら胸を張る。

 

 「女の子の些細な変化に気付くのも、モテる男の重要な条件ですからね」

 

 「……お前がモテてるところ、一度たりとも見たことないんだが」

 

 思わず冷静なツッコミが口から出た。

 

 少なくとも学院でのギリスケは、女子に人気があるというより変人扱いされている印象の方が強い。

 

 むしろ変態発言をして追い回されている姿の方が記憶に残っているくらいだ。

 

 「そこはほら、将来的な話ってやつよ」

 

 「便利な言葉だな、おい」

 

 そんなやり取りを見ていたソンジさんは、くすりと笑った。

 

 「さて、ここまでヒントを出しているんだから、そろそろ気付いてもいいんじゃないかな?」

 

 「うーん……」

 

 改めて皆の姿を見る。

 

 ミオ。

 

 マヒロ。

 

 フィー。

 

 ソンジさん。

 

 確かに普段と何かが違う。

 

 だが、その違和感の正体が掴めない。

 

 髪型はそこまで変わっていない。

 

 アクセサリーも特別目立つものはない。

 

 となると――。

 

 「そんなに難しくねぇって」

 

 ギリスケが呆れたように言う。

 

 「サダメ、お前マジで気付いてなかったのか。流石の俺でもちょっと引くぞ」

 

 「うるせぇな……」

 

 そう言われると余計に気になってくる。

 

 俺は眉間に皺を寄せながら必死に考えた。

 

 ミニスカート。

 

 普段見られない姿。

 

 些細ではない変化。

 

 それらのヒントを頭の中で繋ぎ合わせる。

 

 だが答えが見えてこない。

 

 「……これじゃ埒が明かないね」

 

 とうとうソンジさんが肩を落とした。

 

 「そんな超が付くほど鈍感なサダメおにいちゃんに大ヒントだ」

 

 「大ヒント?」

 

 「普段、私達は何を着て学院へ通っている?」

 

 「何って……学生なんだから制服で――」

 

 そこまで言いかけた瞬間。

 

 頭の中で何かが繋がった。

 

 「あっ」

 

 ようやく理解する。

 

 そういうことか。

 

 俺が見慣れている彼女達の姿は、いつも学院の制服姿だった。

 

 だから今目の前にいる彼女達の服装を、どこか無意識のうちに見落としていたのだ。

 

 今日は旅行だ。

 

 当然ながら制服ではない。

 

 それぞれが自分で選んだ私服を着ている。

 

 ミオも。

 

 マヒロも。

 

 フィーも。

 

 そしてソンジさんも。

 

 普段とは全く違う装いだった。

 

 それなのに俺は、ここへ来るまで一言も触れていなかったのである。

 

 「やっと気付いたか」

 

 ギリスケが呆れ半分の笑みを浮かべる。

 

 「サダメ、お前はもう少し人の変化に気付けるようになった方がいいぞ」

 

 「……」

 

 反論しようとして言葉が詰まる。

 

 今回ばかりは言い返せない。

 

 確かに彼女達は皆、普段とは違う服装でおしゃれをしてきている。

 

 旅行という特別な日だからこそ、服選びにも気合を入れていたのだろう。

 

 それなのに俺は、海だの宿だの昔の思い出だのばかり考えていて、誰一人としてその変化に気付いていなかった。

 

 ……これは流石にまずかったかもしれない。

 

 俺はようやく事態を理解しながら、何とも言えない居心地の悪さを覚えるのだった。

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