転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー13

 「どんかんなサダメおにいちゃんには、罰として一人ずつ感想を言ってもらおうかなー?」

 

 「むぅ……」

 

 皆から満場一致で鈍感認定された俺は、女子達の私服姿について感想を述べるという、あまりにも過酷な罰ゲームを課せられてしまった。

 

 いや、普通ならそこまで大したことではないのかもしれない。

 

 しかし相手は気合いを入れて私服を選んできた女子達だ。

 

 「似合ってるね」や「可愛いね」程度の無難な感想で済まされるはずがない。

 

 かといって、変に踏み込んだ感想を言えば地雷を踏み抜く未来しか見えない。

 

 どう転んでも地獄だった。

 

 「それじゃあまずは私から言ってもらおうかなー? サダメおにいちゃん♪」

 

 「うっ……」

 

 当然のように最初の標的はソンジさんだった。

 

 改めて彼女の服装を見る。

 

 白を基調とした丈の短いワンピース。

 

 普段の白衣姿とは違い、全体的に柔らかく清潔感のある印象を受ける。

 

 というか――。

 

 よく考えたら、この人は普段、白衣の下に最低限の服しか着ていないような格好をしている。

 

 そのせいか、今の方が圧倒的に常識人に見える。

 

 うん。

 

 安心感が違う。

 

 やっぱり人はちゃんと服を着るべきだと思う。

 

 「んー……」

 

 必死に感想を考える。

 

 可愛い。

 

 似合っている。

 

 綺麗。

 

 そういう言葉は何だか気恥ずかしい。

 

 結果、俺の口から出たのは――。

 

 「い、いつもより幼く見えますね」

 

 沈黙。

 

 一拍置いて。

 

 「……ねぇ、それ褒め言葉?」

 

 ソンジさんが微妙な表情で尋ねてきた。

 

 「え? はい。褒めたつもりですけど」

 

 「本当に?」

 

 「本当に」

 

 俺は真面目に頷く。

 

 普段から妹キャラみたいな言動をしているし、実際いつもより可愛らしい雰囲気に見えたのだ。

 

 だから褒め言葉のつもりだった。

 

 決して悪意はない。

 

 断じてない。

 

 「……まぁ、君がそういうつもりで言ったならいいけど」

 

 ソンジさんは苦笑した。

 

 「なんか思ってたのと違ったなぁ」

 

 どうやら反応は今ひとつらしい。

 

 幸先が悪すぎる。

 

 俺の中では結構頑張った方だったのだが。

 

 「じゃあ次はフィーちゃんかな」

 

 『うぇっ!? わ、私!?』

 

 フィーが露骨に身構えた。

 

 しかもさっきのやり取りを見ていたせいか、若干警戒している。

 

 その反応が地味に傷付く。

 

 「そんな嫌そうな顔しなくても……」

 

 『だって不安なんだもん……』

 

 「否定できないのが辛いな」

 

 自分でも少し自信を失い始めていた。

 

 だがここで挽回しなければならない。

 

 俺はフィーの服装をじっくり観察する。

 

 ホットパンツ。

 

 黒いへそ出しシャツ。

 

 さらに赤と黒を基調としたキャップ帽。

 

 全体的に活発でスポーティな印象だ。

 

 見た目の幼さも相まって、おしゃれな女子中学生のように見える。

 

 いや、本当にそう見える。

 

 そして、その印象をそのまま言葉にした結果――。

 

 「わ、若々しくていいと思うよ!」

 

 『……』

 

 フィーは数秒ほど無言になった。

 

 嫌な予感がする。

 

 『私、まだ十五歳なんだけど?』

 

 「……ですよね」

 

 しまった。

 

 完全におじさんの感想だった。

 

 若々しいというのは本来もっと年上に向けて使う言葉である。

 

 十五歳に言う感想ではない。

 

 俺は思わず視線を逸らした。

 

 周囲からも何とも言えない空気が漂ってくる。

 

 「……」

 

 「……」

 

 気まずい。

 

 非常に気まずい。

 

 この場の全員が同じことを考えている気がする。

 

 ――こいつ、感想を言うセンスが壊滅的なのでは?

 

 と。

 

 「え、えーっと……次は……」

 

 俺が恐る恐る視線を向けると、ミオが慌てて手を上げた。

 

 「ま、待った!」

 

 「え?」

 

 「まだ続けるの? これ……」

 

 ミオの表情はどこか引きつっている。

 

 恐らく次の被害者になりたくないのだろう。

 

 その気持ちは理解できる。

 

 俺だって逃げたい。

 

 「う、うーん……」

 

 ソンジさんも腕を組みながら考え込んだ。

 

 そして。

 

 「……もういいか」

 

 「えっ」

 

 「これ以上被害者を増やさないためにも」

 

 「被害者!?」

 

 あまりにも酷い言われようだった。

 

 「いやいや、そこまで酷くないでしょう!?」

 

 「酷いでござる」

 

 「酷かったっすね」

 

 『酷かったね』

 

 「酷かったよ」

 

 全員が即答した。

 

 しかも誰一人として迷いがない。

 

 「……なんかすみません」

 

 俺は素直に謝るしかなかった。

 

 こうして俺への罰ゲームは途中で打ち切りとなった。

 

 結果として判明したのは、自分には女性のファッションを評価する才能が絶望的なほど欠けているという事実だけだった。

 

 褒めているつもりなのに微妙な空気になる。

 

 悪気はないのに評価が下がる。

 

 これほど理不尽なことがあるだろうか。

 

 いや、違う。

 

 理不尽ではない。

 

 単純に俺のセンスが壊滅的なだけだ。

 

 その事実を突き付けられた俺は、潮風を浴びながら静かに反省するのだった。

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