それから約一時間後――。
泊まれそうな宿を見つけては予約の有無を確認していたものの、結果は芳しくなかった。
満室。
また満室。
そして、やはり満室。
気付けば十軒近く回っていたが、どこも同じ返答ばかりだった。
「はあ……やっぱどこも駄目かー」
「こりゃ本格的にキャンプ確定っぽいな」
宿探しを一旦切り上げた自分達は、近くのベンチに腰を下ろして休憩していた。
ここまで来ると、今から宿を確保するのはかなり厳しいだろう。
シッター村は海水浴シーズン真っ只中。観光客の数を考えれば当然の結果とも言える。
前世ならスマホで空室状況を確認したり、事前に予約を入れたりするのは当たり前だった。しかし、この世界ではそうもいかない。
ソンジさん達のおかげでインターネットという概念自体は生まれつつあるものの、一般に普及するにはまだまだ時間が掛かるだろう。
電話のように気軽に遠方と連絡を取れる技術も存在していない。
前世の記憶を持つ自分からすると、その辺りはやはり不便に感じてしまう。
そんな事を考えていた時だった。
ぐうぅぅぅぅぅ。
「ん?」
どこからか盛大な音が聞こえてきた。
人混みで賑わう通りの中でもはっきり聞こえるほどの大音量。
どう考えても腹の虫だった。
音のした方へ視線を向ける。
「うぅ……拙者、お腹が空いたでござるよぉ……」
マヒロが腹を押さえながら力なく項垂れていた。
どうやら犯人は彼女らしい。
言われてみれば、もう昼食時はとっくに過ぎている。
シッター村に到着してから宿探しばかりしていて、まだ何も口にしていなかった。
マヒロの姿を見ていると、何だかこちらまで空腹を自覚してしまう。
「そうだな。とりあえず昼飯にするか」
俺は立ち上がりながら言った。
「どっかで適当に買って来るよ」
「それなら拙者もお供致すでござる!」
マヒロが勢いよく立ち上がる。
先程までの空腹で死にそうな顔はどこへ行ったのか。
食べ物の話になった瞬間、目に見えて元気になっていた。
「まあ、一人で六人分買うのも大変だしな」
荷物持ちが増えるならむしろ助かる。
そう思い、同行を許可した。
すると今度はミオがおずおずと手を挙げる。
「じゃ、じゃあ私も……」
「いや、昼飯を買いに行くだけだから二人で十分だよ」
「えっ?」
「その間にミオ達は他に泊まれそうな宿がないか探しておいてくれ」
宿探しはまだ終わっていない。
ここで全員が買い出しへ行ってしまえば時間がもったいない。
宿探しと昼食調達を並行して進めた方が効率的だろう。
「う、うん……分かった」
ミオは少しだけ残念そうな表情を浮かべたが、素直に頷いた。
「んじゃ、行って来る。三十分くらいしたらまたここで集合な」
「おう。美味いもん頼むぜー!」
「任せるでござるよー!」
『二人ともありがとー! 後でちゃんとお金払うからねー!』
それぞれの声を背中に受けながら、自分とマヒロは歩き出した。
こうして一時的に別行動となった俺達。
果たして宿は見つかるのか。
それとも本当に野宿になるのか。
そんな不安を抱えながらも、今はまず空腹を満たすため、賑やかな港町の通りへと足を向けるのだった。