転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

358 / 418
第8章ー14

 それから約一時間後――。

 

 泊まれそうな宿を見つけては予約の有無を確認していたものの、結果は芳しくなかった。

 

 満室。

 

 また満室。

 

 そして、やはり満室。

 

 気付けば十軒近く回っていたが、どこも同じ返答ばかりだった。

 

 「はあ……やっぱどこも駄目かー」

 

 「こりゃ本格的にキャンプ確定っぽいな」

 

 宿探しを一旦切り上げた自分達は、近くのベンチに腰を下ろして休憩していた。

 

 ここまで来ると、今から宿を確保するのはかなり厳しいだろう。

 

 シッター村は海水浴シーズン真っ只中。観光客の数を考えれば当然の結果とも言える。

 

 前世ならスマホで空室状況を確認したり、事前に予約を入れたりするのは当たり前だった。しかし、この世界ではそうもいかない。

 

 ソンジさん達のおかげでインターネットという概念自体は生まれつつあるものの、一般に普及するにはまだまだ時間が掛かるだろう。

 

 電話のように気軽に遠方と連絡を取れる技術も存在していない。

 

 前世の記憶を持つ自分からすると、その辺りはやはり不便に感じてしまう。

 

 そんな事を考えていた時だった。

 

 ぐうぅぅぅぅぅ。

 

 「ん?」

 

 どこからか盛大な音が聞こえてきた。

 

 人混みで賑わう通りの中でもはっきり聞こえるほどの大音量。

 

 どう考えても腹の虫だった。

 

 音のした方へ視線を向ける。

 

 「うぅ……拙者、お腹が空いたでござるよぉ……」

 

 マヒロが腹を押さえながら力なく項垂れていた。

 

 どうやら犯人は彼女らしい。

 

 言われてみれば、もう昼食時はとっくに過ぎている。

 

 シッター村に到着してから宿探しばかりしていて、まだ何も口にしていなかった。

 

 マヒロの姿を見ていると、何だかこちらまで空腹を自覚してしまう。

 

 「そうだな。とりあえず昼飯にするか」

 

 俺は立ち上がりながら言った。

 

 「どっかで適当に買って来るよ」

 

 「それなら拙者もお供致すでござる!」

 

 マヒロが勢いよく立ち上がる。

 

 先程までの空腹で死にそうな顔はどこへ行ったのか。

 

 食べ物の話になった瞬間、目に見えて元気になっていた。

 

 「まあ、一人で六人分買うのも大変だしな」

 

 荷物持ちが増えるならむしろ助かる。

 

 そう思い、同行を許可した。

 

 すると今度はミオがおずおずと手を挙げる。

 

 「じゃ、じゃあ私も……」

 

 「いや、昼飯を買いに行くだけだから二人で十分だよ」

 

 「えっ?」

 

 「その間にミオ達は他に泊まれそうな宿がないか探しておいてくれ」

 

 宿探しはまだ終わっていない。

 

 ここで全員が買い出しへ行ってしまえば時間がもったいない。

 

 宿探しと昼食調達を並行して進めた方が効率的だろう。

 

 「う、うん……分かった」

 

 ミオは少しだけ残念そうな表情を浮かべたが、素直に頷いた。

 

 「んじゃ、行って来る。三十分くらいしたらまたここで集合な」

 

 「おう。美味いもん頼むぜー!」

 

 「任せるでござるよー!」

 

 『二人ともありがとー! 後でちゃんとお金払うからねー!』

 

 それぞれの声を背中に受けながら、自分とマヒロは歩き出した。

 

 こうして一時的に別行動となった俺達。

 

 果たして宿は見つかるのか。

 

 それとも本当に野宿になるのか。

 

 そんな不安を抱えながらも、今はまず空腹を満たすため、賑やかな港町の通りへと足を向けるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。