「うむ! ここの村の魚料理はどれも絶品でござるなー!」
「それはようござんした……けど、皆の分もちゃんと残しておけよ?」
昼食を買い終えた俺達は、集合場所だったベンチへ戻る途中だった。
あれから三十分ほど経っただろうか。
屋台や飲食店が立ち並ぶ通りを歩いているうちに、気付けば紙袋が二つもパンパンになっていた。
どの店も美味しそうな匂いを漂わせていたせいで、つい予定以上に買い込んでしまったのだ。
……いや。
正確には、マヒロの「あれも食べたい」「これも気になる」という要望を全部聞いていたらこうなった。
その張本人はというと――。
「んむ、んむっ♪」
ご機嫌な様子でフィッシュバーガーを頬張っていた。
これで三つ目だったか。
食べ物を前にしてすっかり元気を取り戻したのは良いことだが、この調子だと皆の分まで平らげかねない。
紙袋の中身を確認しながら、俺は密かに不安を覚えていた。
「にしても……」
視線を周囲へ向ける。
「観光地なだけあって、思った以上に栄えてるな。この村」
素直な感想が口を突いて出た。
シッター村は想像以上に発展していた。
港町という土地柄もあるのか、建物は石造りやコンクリート製のものが多く、道もしっかり整備されている。
店も飲食店ばかりではない。
アクセサリーショップや衣料品店、雑貨店なども並んでおり、買い物だけでも十分楽しめそうだった。
観光客らしき人々も多く、通りには活気が溢れている。
正直なところ、俺の故郷であるリーヴ村よりも遥かに賑やかだ。
ソワレル学園からもそこまで離れていないし、海運による物流が発達しているのかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていると――。
「んぐっ……ぷはぁ」
隣から満足そうな声が聞こえた。
いつの間にかバーガーを完食したマヒロが、何かを言いたそうにこちらを見ている。
「そういえばサダメ」
「ん?」
「聞きそびれていたのでござるが……」
妙に歯切れが悪い。
珍しく緊張しているようにも見える。
何だろうか。
食べ物の話ではなさそうだ。
「こ、この服……似合っているでござるか?」
「……え?」
一瞬、思考が止まった。
マヒロは少しだけ俯きながら、スカートの裾を摘まんで見せる。
どこかで見たような仕草だった。
そうだ。
さっきソンジさんがやっていたやつだ。
つまり――。
私服の感想を聞いているのである。
「っ!?」
今になって理解し、思わず変な声が出そうになった。
まさかマヒロも気にしていたとは。
というか、あの罰ゲームを見ていてまだ感想を求めてくるのか。
俺の評価は散々だったはずなのだが。
「い、いいのか? 俺なんかの感想で」
念のため確認する。
割と真面目に確認する。
言う側だって傷付くのだ。
反応が微妙だった時の精神的ダメージは決して小さくない。
「無論でござる!」
マヒロは即答した。
「むしろサダメから感想を聞きたかったのでござる! だからソンジ殿に相談して、服も選んでもらったのでござるよ!」
「そ、そうだったのか……」
どうやら今日の服装はソンジさんの見立てらしい。
そこまでは予想していたが――。
俺に見てもらうために選んだ。
その一言は少し予想外だった。
何だろう。
嬉しいような。
照れ臭いような。
妙に落ち着かない気分になる。
改めて彼女の服装を見る。
紫を基調としたチェック柄のミニスカート。
白いシャツ。
胸元にはこの世界の文字がロゴのようにデザインされている。
派手すぎず、それでいて地味でもない。
年相応の可愛らしさがありながら、どこか大人っぽさも感じる服装だった。
正直な話。
普段のマヒロは道着や訓練着のイメージが強い。
だから最初は少し意外だった。
しかし今こうして見ると、不思議なくらい違和感がない。
むしろよく似合っている。
「ど、どうでござるか?」
不安そうに見上げてくる。
その表情を見た瞬間、言葉に詰まった。
困った。
俺には褒めるセンスがない。
それは先程の罰ゲームで証明済みだ。
下手なことを言えばまた失敗するかもしれない。
ならば――。
変に飾らない方がいい。
そう判断した。
「……可愛いと思うぞ」
シンプルだった。
あまりにもシンプルだった。
けれど、それが今の俺の正直な感想だった。
言った瞬間、自分でも妙に恥ずかしくなる。
不思議だ。
さっきまで散々感想を言わされていたのに、この一言が一番照れ臭かった。
「そ、そうでござるか?」
マヒロは目を丸くした。
そして――。
「えへへ……良かったでござる」
満面の笑みを浮かべた。
「っ!」
その笑顔を見た瞬間、胸がどくりと鳴った。
顔が熱い。
心臓がおかしい。
何だこれ。
アラサーだった男が、女子を褒めただけで動揺しているのか?
いや、違う。
問題はその後の笑顔だ。
あれは反則だろう。
そんな妙な違和感を抱えたまま、俺は何事もなかったかのように歩き続ける。
潮風が吹く。
だが、熱くなった顔は少しも冷めてくれそうになかった。