転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー15

 「うむ! ここの村の魚料理はどれも絶品でござるなー!」

 

 「それはようござんした……けど、皆の分もちゃんと残しておけよ?」

 

 昼食を買い終えた俺達は、集合場所だったベンチへ戻る途中だった。

 

 あれから三十分ほど経っただろうか。

 

 屋台や飲食店が立ち並ぶ通りを歩いているうちに、気付けば紙袋が二つもパンパンになっていた。

 

 どの店も美味しそうな匂いを漂わせていたせいで、つい予定以上に買い込んでしまったのだ。

 

 ……いや。

 

 正確には、マヒロの「あれも食べたい」「これも気になる」という要望を全部聞いていたらこうなった。

 

 その張本人はというと――。

 

 「んむ、んむっ♪」

 

 ご機嫌な様子でフィッシュバーガーを頬張っていた。

 

 これで三つ目だったか。

 

 食べ物を前にしてすっかり元気を取り戻したのは良いことだが、この調子だと皆の分まで平らげかねない。

 

 紙袋の中身を確認しながら、俺は密かに不安を覚えていた。

 

 「にしても……」

 

 視線を周囲へ向ける。

 

 「観光地なだけあって、思った以上に栄えてるな。この村」

 

 素直な感想が口を突いて出た。

 

 シッター村は想像以上に発展していた。

 

 港町という土地柄もあるのか、建物は石造りやコンクリート製のものが多く、道もしっかり整備されている。

 

 店も飲食店ばかりではない。

 

 アクセサリーショップや衣料品店、雑貨店なども並んでおり、買い物だけでも十分楽しめそうだった。

 

 観光客らしき人々も多く、通りには活気が溢れている。

 

 正直なところ、俺の故郷であるリーヴ村よりも遥かに賑やかだ。

 

 ソワレル学園からもそこまで離れていないし、海運による物流が発達しているのかもしれない。

 

 そんな事を考えながら歩いていると――。

 

 「んぐっ……ぷはぁ」

 

 隣から満足そうな声が聞こえた。

 

 いつの間にかバーガーを完食したマヒロが、何かを言いたそうにこちらを見ている。

 

 「そういえばサダメ」

 

 「ん?」

 

 「聞きそびれていたのでござるが……」

 

 妙に歯切れが悪い。

 

 珍しく緊張しているようにも見える。

 

 何だろうか。

 

 食べ物の話ではなさそうだ。

 

 「こ、この服……似合っているでござるか?」

 

 「……え?」

 

 一瞬、思考が止まった。

 

 マヒロは少しだけ俯きながら、スカートの裾を摘まんで見せる。

 

 どこかで見たような仕草だった。

 

 そうだ。

 

 さっきソンジさんがやっていたやつだ。

 

 つまり――。

 

 私服の感想を聞いているのである。

 

 「っ!?」

 

 今になって理解し、思わず変な声が出そうになった。

 

 まさかマヒロも気にしていたとは。

 

 というか、あの罰ゲームを見ていてまだ感想を求めてくるのか。

 

 俺の評価は散々だったはずなのだが。

 

 「い、いいのか? 俺なんかの感想で」

 

 念のため確認する。

 

 割と真面目に確認する。

 

 言う側だって傷付くのだ。

 

 反応が微妙だった時の精神的ダメージは決して小さくない。

 

 「無論でござる!」

 

 マヒロは即答した。

 

 「むしろサダメから感想を聞きたかったのでござる! だからソンジ殿に相談して、服も選んでもらったのでござるよ!」

 

 「そ、そうだったのか……」

 

 どうやら今日の服装はソンジさんの見立てらしい。

 

 そこまでは予想していたが――。

 

 俺に見てもらうために選んだ。

 

 その一言は少し予想外だった。

 

 何だろう。

 

 嬉しいような。

 

 照れ臭いような。

 

 妙に落ち着かない気分になる。

 

 改めて彼女の服装を見る。

 

 紫を基調としたチェック柄のミニスカート。

 

 白いシャツ。

 

 胸元にはこの世界の文字がロゴのようにデザインされている。

 

 派手すぎず、それでいて地味でもない。

 

 年相応の可愛らしさがありながら、どこか大人っぽさも感じる服装だった。

 

 正直な話。

 

 普段のマヒロは道着や訓練着のイメージが強い。

 

 だから最初は少し意外だった。

 

 しかし今こうして見ると、不思議なくらい違和感がない。

 

 むしろよく似合っている。

 

 「ど、どうでござるか?」

 

 不安そうに見上げてくる。

 

 その表情を見た瞬間、言葉に詰まった。

 

 困った。

 

 俺には褒めるセンスがない。

 

 それは先程の罰ゲームで証明済みだ。

 

 下手なことを言えばまた失敗するかもしれない。

 

 ならば――。

 

 変に飾らない方がいい。

 

 そう判断した。

 

 「……可愛いと思うぞ」

 

 シンプルだった。

 

 あまりにもシンプルだった。

 

 けれど、それが今の俺の正直な感想だった。

 

 言った瞬間、自分でも妙に恥ずかしくなる。

 

 不思議だ。

 

 さっきまで散々感想を言わされていたのに、この一言が一番照れ臭かった。

 

 「そ、そうでござるか?」

 

 マヒロは目を丸くした。

 

 そして――。

 

 「えへへ……良かったでござる」

 

 満面の笑みを浮かべた。

 

 「っ!」

 

 その笑顔を見た瞬間、胸がどくりと鳴った。

 

 顔が熱い。

 

 心臓がおかしい。

 

 何だこれ。

 

 アラサーだった男が、女子を褒めただけで動揺しているのか?

 

 いや、違う。

 

 問題はその後の笑顔だ。

 

 あれは反則だろう。

 

 そんな妙な違和感を抱えたまま、俺は何事もなかったかのように歩き続ける。

 

 潮風が吹く。

 

 だが、熱くなった顔は少しも冷めてくれそうになかった。

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