「結局、今日は野宿で決定か……」
「しょうがないよ。今回の件は良い教訓だったって事で、前向きに考えようよ」
「そうでござるよ、サダメ! 野宿は野宿で楽しいものでござる!」
二泊三日の旅行、その一日目の夜。
俺達は人気の少ない砂浜で、ようやくテントの設営を終えたところだった。
昼食を食べ終えた後も宿探しを続けていたのだが、結果は惨敗。
何軒回っても満室。
途中、空室のある宿も見つけはしたものの、六人という人数が問題だった。
男女で部屋を分ける必要がある上に、この時期はどこも観光シーズン価格。条件の良い宿は軒並み埋まっており、残っていた部屋も学生の財布には中々厳しい金額だった。
ここで無理をしてしまえば、帰りの交通費や残り二日間の遊興費にまで影響が出る。
そんな事情もあり、俺達は宿泊を諦めてキャンプを選択したのだった。
「まあ、テントが借りられただけでも運が良かったか」
周囲を見回しながら呟く。
日が暮れる前には寝床を確保したいと思い、昼のうちに貸し出し用のテントを二張り借りていた。
人生初のテント設営は想像以上に難しかった。
説明書を見てもよく分からない。
骨組みは絡まる。
布は裏表が分からない。
何度も失敗を繰り返しながら悪戦苦闘した結果、どうにか日没前に完成したのである。
もし経験者がいなかったら、今頃砂浜で途方に暮れていたかもしれない。
「ソンジさん、本当に助かりました」
「ん? 何がだい?」
「テントですよ。経験者が居なかったら危なかったです」
「ははっ。別に大した事じゃないさ」
ソンジさんは肩を竦めて笑う。
意外だった。
普段は研究室に籠もってばかりいる印象だったから、まさかキャンプ経験者だとは思わなかった。
案外、アウトドア派なのだろうか。
それとも前世では陽気なパリピだったりしたのだろうか。
……いや。
流石にそれは想像出来ないな。
白衣姿でクラブに出入りするソンジさんを思い浮かべてしまい、一人で苦笑する。
そんな事を考えていると――。
「みんなー! 食材買ってきたよー!」
聞き慣れた声が砂浜に響いた。
振り返ると、買い出しへ行っていたミオとフィーがこちらへ歩いて来る。
『はぁ……はぁ……お、重いぃ……』
フィーは両手いっぱいの紙袋を抱えながら、肩で息をしていた。
どうやら相当な重量だったらしい。
「おっ、おかえり」
「二人ともお疲れ様」
俺達は慌てて荷物を受け取る。
テント設営には力仕事が必要だったため、買い出しは二人に任せていたのだ。
仕方なかったとはいえ、少し申し訳ない気持ちになる。
「買い物多めに頼んじゃって悪かったな」
「ううん。別にそれはいいんだけど……」
ミオは苦笑しながら紙袋を下ろした。
そして、中に詰まった大量の食材へ視線を向ける。
「これだけ買って、何を作るつもりなの?」
確かに当然の疑問だ。
袋の中には魚、肉、野菜、パンなどが大量に詰め込まれていた。
紙袋が破れなかったのが不思議なくらいである。
「ふっふっふ……!」
その質問を待っていたと言わんばかりに、ソンジさんが胸を張った。
「キャンプと言えばバーベキュー!」
ビシッと指を突き上げる。
「せっかく海辺まで来たんだ。食事も全力で楽しまなきゃ損だろう?」
「は、はあ……」
ミオは圧倒されながら曖昧に頷いた。
何だろう。
気のせいか、ソンジさんの鼻が少し高くなっているように見える。
もしかして、この人。
最初からバーベキューをやるのを楽しみにしていたのではないだろうか。
そんな疑惑が頭をよぎる。
もっとも、それは俺達も同じかもしれない。
昼間は宿探しで散々だったが、こうして海辺で仲間達と火を囲むのも悪くない。
潮風が吹き抜ける。
空には無数の星が輝き始めていた。
そして――。
その後、俺達は焼き立ての魚や肉を頬張りながら、夜遅くまでバーベキューを満喫するのだった。