転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー17

 バーベキューを堪能し、後片付けまで終えた後、自分達はそれぞれ自由な時間を過ごしていた。

 

 テントへ戻って休む者。

 

 海辺を散歩する者。

 

 そして、夜の海ではしゃぐ者。

 

 各々が思い思いに旅行の夜を楽しんでいる。

 

 そんな中、自分はというと――。

 

 満腹感と一日中歩き回った疲労のせいで、まともに身体を動かす気力が残っていなかった。

 

 砂浜に腰を下ろし、ただぼんやりと夜空と海を眺めている。

 

 見上げれば、そこには満天の星空が広がっていた。

 

 雲一つない夜空には無数の星々が瞬いており、まるで宝石を散りばめたように美しい。

 

 一方で海の方は真っ暗だ。

 

 昼間のような青さも、水面の輝きも見えない。

 

 ただ、果てしなく続く黒だけがそこにある。

 

 それでも不思議と嫌な気はしなかった。

 

 むしろ、個人的には結構好きな光景だった。

 

 星空ばかり見続けていると、時々眩しすぎて目が疲れてしまう事もある。

 

 その点、夜の海は静かで落ち着く。

 

 波の音だけが一定のリズムで響き、心をゆっくりと落ち着かせてくれるのだ。

 

 「いやー! つめたーい!!」

 

 『ほれほれー!』

 

 「きゃあ!? もう、フィーちゃんってば! お返しー!」

 

 『うわっ!? ミオめ! やったなー!?』

 

 静かな波音の中に、楽しそうな声が混ざる。

 

 視線を向けると、浅瀬ではミオとフィーが海水を掛け合って遊んでいた。

 

 夜だというのに元気なものだ。

 

 いや、若いからこそなのだろうか。

 

 濡れる事も気にせずはしゃぎ回る二人の姿を見ていると、自然と頬が緩む。

 

 楽しそうだから、今はそっとしておこう。

 

 そんな事を思っていた時だった。

 

 「隣、宜しいでござるか?」

 

 後ろから聞き慣れた声が掛けられた。

 

 振り返ると、そこにはマヒロが立っている。

 

 「ん? ああ、マヒロか」

 

 俺は隣の砂浜を軽く叩いた。

 

 「別にいいぞ」

 

 「では、失礼するでござる」

 

 マヒロはぺたんと隣へ腰を下ろした。

 

 砂浜に並んで座りながら、しばらく二人で海を眺める。

 

 潮風が心地良い。

 

 昼間の暑さが嘘のようだった。

 

 「一緒に遊ばないのか?」

 

 俺はミオ達を指差しながら尋ねる。

 

 マヒロの性格なら真っ先に混ざっていそうなものだ。

 

 「うーむ……」

 

 マヒロは少し困ったような顔をした。

 

 「本当は参加したいのでござるが……うっぷ」

 

 「ん?」

 

 「ばーべきゅーとやらを食べ過ぎて、少々身体が重いのでござる」

 

 そう言いながら自分の腹を撫でる。

 

 なるほど。

 

 原因は分かりやすかった。

 

 「そういや、一番食べてたもんな」

 

 「ど、どれも美味でござったのだから仕方ないでござろう!?」

 

 「ははっ」

 

 思わず笑ってしまう。

 

 実際、今日のマヒロは誰よりも食べていた。

 

 肉も魚も野菜も。

 

 焼き上がる度に美味しそうに頬張っていた姿を思い出す。

 

 「まあ、気持ちは分かるよ」

 

 「でござろう?」

 

 マヒロは嬉しそうに頷いた。

 

 「まさか、ただ焼くだけであそこまで美味しくなるとは思わなんだ」

 

 「確かにな」

 

 俺も同意する。

 

 「でも、料理そのものだけじゃないと思うぞ」

 

 「と、言うと?」

 

 「外で食べてるからだよ」

 

 波音を聞きながら答える。

 

 「海があって、皆がいて、騒ぎながら食べてる。そういう雰囲気込みで美味しく感じるんだと思う」

 

 「なるほど……」

 

 マヒロは感心したように頷いた。

 

 しばらく考え込んだ後、ぽつりと呟く。

 

 「では、毎日ばーべきゅーをすれば、毎日美味しいのでござるな?」

 

 「いや、それは違う」

 

 即答だった。

 

 「えっ」

 

 「流石に毎日やったら飽きる」

 

 「そうなのでござるか?」

 

 「そうなんだよ」

 

 俺は苦笑する。

 

 「こういうのは特別だから楽しいんだ」

 

 「特別だから……」

 

 「毎日やったら準備も大変だしな」

 

 「それは確かに」

 

 マヒロも納得したように頷く。

 

 実際、今日だけでもかなり大変だった。

 

 火を起こして。

 

 食材を切って。

 

 焼いて。

 

 後片付けをして。

 

 正直、毎日やる気には到底なれない。

 

 楽しい思い出として残るのは、たまにやるからこそだろう。

 

 そんな他愛のない会話を交わしながら、俺達は静かな夜の海を眺め続ける。

 

 遠くではミオ達の笑い声が聞こえる。

 

 頭上には満天の星空。

 

 目の前には果てしなく続く夜の海。

 

 そして隣には、どこか満足そうに腹を擦るマヒロ。

 

 ――悪くない夜だな。

 

 そう思いながら、俺は静かに潮風を浴びるのだった。

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