バーベキューを堪能し、後片付けまで終えた後、自分達はそれぞれ自由な時間を過ごしていた。
テントへ戻って休む者。
海辺を散歩する者。
そして、夜の海ではしゃぐ者。
各々が思い思いに旅行の夜を楽しんでいる。
そんな中、自分はというと――。
満腹感と一日中歩き回った疲労のせいで、まともに身体を動かす気力が残っていなかった。
砂浜に腰を下ろし、ただぼんやりと夜空と海を眺めている。
見上げれば、そこには満天の星空が広がっていた。
雲一つない夜空には無数の星々が瞬いており、まるで宝石を散りばめたように美しい。
一方で海の方は真っ暗だ。
昼間のような青さも、水面の輝きも見えない。
ただ、果てしなく続く黒だけがそこにある。
それでも不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ、個人的には結構好きな光景だった。
星空ばかり見続けていると、時々眩しすぎて目が疲れてしまう事もある。
その点、夜の海は静かで落ち着く。
波の音だけが一定のリズムで響き、心をゆっくりと落ち着かせてくれるのだ。
「いやー! つめたーい!!」
『ほれほれー!』
「きゃあ!? もう、フィーちゃんってば! お返しー!」
『うわっ!? ミオめ! やったなー!?』
静かな波音の中に、楽しそうな声が混ざる。
視線を向けると、浅瀬ではミオとフィーが海水を掛け合って遊んでいた。
夜だというのに元気なものだ。
いや、若いからこそなのだろうか。
濡れる事も気にせずはしゃぎ回る二人の姿を見ていると、自然と頬が緩む。
楽しそうだから、今はそっとしておこう。
そんな事を思っていた時だった。
「隣、宜しいでござるか?」
後ろから聞き慣れた声が掛けられた。
振り返ると、そこにはマヒロが立っている。
「ん? ああ、マヒロか」
俺は隣の砂浜を軽く叩いた。
「別にいいぞ」
「では、失礼するでござる」
マヒロはぺたんと隣へ腰を下ろした。
砂浜に並んで座りながら、しばらく二人で海を眺める。
潮風が心地良い。
昼間の暑さが嘘のようだった。
「一緒に遊ばないのか?」
俺はミオ達を指差しながら尋ねる。
マヒロの性格なら真っ先に混ざっていそうなものだ。
「うーむ……」
マヒロは少し困ったような顔をした。
「本当は参加したいのでござるが……うっぷ」
「ん?」
「ばーべきゅーとやらを食べ過ぎて、少々身体が重いのでござる」
そう言いながら自分の腹を撫でる。
なるほど。
原因は分かりやすかった。
「そういや、一番食べてたもんな」
「ど、どれも美味でござったのだから仕方ないでござろう!?」
「ははっ」
思わず笑ってしまう。
実際、今日のマヒロは誰よりも食べていた。
肉も魚も野菜も。
焼き上がる度に美味しそうに頬張っていた姿を思い出す。
「まあ、気持ちは分かるよ」
「でござろう?」
マヒロは嬉しそうに頷いた。
「まさか、ただ焼くだけであそこまで美味しくなるとは思わなんだ」
「確かにな」
俺も同意する。
「でも、料理そのものだけじゃないと思うぞ」
「と、言うと?」
「外で食べてるからだよ」
波音を聞きながら答える。
「海があって、皆がいて、騒ぎながら食べてる。そういう雰囲気込みで美味しく感じるんだと思う」
「なるほど……」
マヒロは感心したように頷いた。
しばらく考え込んだ後、ぽつりと呟く。
「では、毎日ばーべきゅーをすれば、毎日美味しいのでござるな?」
「いや、それは違う」
即答だった。
「えっ」
「流石に毎日やったら飽きる」
「そうなのでござるか?」
「そうなんだよ」
俺は苦笑する。
「こういうのは特別だから楽しいんだ」
「特別だから……」
「毎日やったら準備も大変だしな」
「それは確かに」
マヒロも納得したように頷く。
実際、今日だけでもかなり大変だった。
火を起こして。
食材を切って。
焼いて。
後片付けをして。
正直、毎日やる気には到底なれない。
楽しい思い出として残るのは、たまにやるからこそだろう。
そんな他愛のない会話を交わしながら、俺達は静かな夜の海を眺め続ける。
遠くではミオ達の笑い声が聞こえる。
頭上には満天の星空。
目の前には果てしなく続く夜の海。
そして隣には、どこか満足そうに腹を擦るマヒロ。
――悪くない夜だな。
そう思いながら、俺は静かに潮風を浴びるのだった。