サダメ達がシッター村へ到着してから最初の夜。
その頃、シッター村から数キロ離れた沖合の海底では、大量の魚人系魔物達が密かに集結していた。
魚人系統の魔物は、その名の通り魚類の頭部と人間に近い肉体を併せ持つ種族である。
身体能力は一般的な成人男性の三倍以上。
さらに水術の扱いに関しては人間の十倍近い才能を有していると言われている。
特に水中戦においては圧倒的な強さを誇り、人間はもちろん、多くの地上系魔物ですら彼らに敵うことはない。
そんな魚人達が今宵、一体の魔物の下へ集っていた。
「グリムフィッシャー様。号令に応じた者、総勢五百。予定通り集結しております」
「うむ。ご苦労であった」
報告を受けた魔物はゆっくりと頷く。
グリムフィッシャー。
鮫を思わせる鋭い顔立ち。
強靭な青い肉体。
背中から伸びる巨大な背鰭。
その姿は一目見ただけで強者だと理解できる威圧感を放っていた。
魚人達を束ねる支配者であり、海域最強クラスと恐れられる存在でもある。
今も豪奢な玉座に腰掛けながら、悠然と部下の報告を聞いていた。
「では、皆も集まりましたので……」
部下は恭しく頭を下げる。
「グリムフィッシャー様からお言葉を頂ければと」
「ああ。そうだな」
グリムフィッシャーはゆっくりと立ち上がった。
魚人の平均身長は二~三メートルほど。
だが、グリムフィッシャーは違う。
その巨体は五メートルを優に超えていた。
三メートル近い体格を持つ部下でさえ、彼の前では子供のように小さく見える。
その圧倒的な存在感に、周囲の魚人達は自然と息を呑んだ。
「諸君!!」
海底を震わせるような大声が響く。
先程まで各々で談笑していた魚人達は一斉に口を閉ざした。
瞬く間に静寂が広がる。
「よくぞ私の呼び掛けに応じてくれた!!」
グリムフィッシャーは両腕を広げながら叫ぶ。
「まずは礼を言おう!! 集ってくれたこと、心より感謝する!!」
その声は広大な海底全域に響き渡った。
五百もの魚人達が集まっているにもかかわらず、その全員の耳へはっきり届くほどの声量だった。
誰一人として聞き漏らす者はいない。
皆が固唾を飲んで次の言葉を待っていた。
そして――。
グリムフィッシャーは獰猛な笑みを浮かべる。
「今宵、貴様らを集めた理由は他でもない!!」
その言葉に魚人達の表情が引き締まる。
「十年前の雪辱を果たす時が来たのだ!!」
「「ッ!!」」
一瞬で海底がざわついた。
十年前。
その言葉だけで察した者も少なくない。
驚愕。
興奮。
期待。
様々な感情が入り混じり、静まり返っていた空間が一気に騒然となる。
すると側近の一体が慎重に問い掛けた。
「……ということは」
「うむ」
「やはり、『アレ』を実行されるのですね?」
問いを聞いたグリムフィッシャーは不敵に笑った。
鋭い牙が覗く。
その笑みには絶対的な自信が満ちていた。
「愚問だな」
低く唸るような声が響く。
「当然だ」
その一言を聞いた側近は満足そうに頷き、静かに一歩下がった。
そして――。
グリムフィッシャーは両腕を天へ突き上げる。
「皆の者!!」
五百の魚人達が一斉に顔を上げた。
「私に力を貸せ!!」
その眼光は鋭く燃えている。
「今度こそ成功させるぞ!!」
そして高らかに宣言した。
「――【
刹那。
海底が揺れた。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
五百体の魚人達が咆哮する。
歓喜。
熱狂。
狂気。
全てが入り混じった絶叫が海中へ轟いた。