転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー20

 「お疲れ様です、グリムフィッシャー様。お見事な演説でした」

 

 集会が終了し、魚人達が各々出陣の準備を進める中、一体の部下が恭しく頭を下げた。

 

 それに対し、グリムフィッシャーは鼻を鳴らす。

 

 「ふん。馬鹿者め」

 

 腕を組みながら不敵に笑った。

 

 「貴様に言われずとも分かる。あれだけの歓声を聞けばな」

 

 口調こそ素っ気ない。

 

 しかし、その表情はどこか満足げだった。

 

 どうやら魚人達の反応は、グリムフィッシャーにとっても予想以上だったらしい。

 

 「では、予定通り準備が整い次第出陣、ということで宜しいのですね?」

 

 「ああ」

 

 グリムフィッシャーは頷く。

 

 「そちらの手筈は問題ないのだろうな?」

 

 「勿論です」

 

 部下は胸を張った。

 

 「既に全て整えております」

 

 「そうか」

 

 短く返答する。

 

 その声音には絶対的な信頼が滲んでいた。

 

 どうやら今回の計画は、かなり以前から周到に準備されていたらしい。

 

 もはや後戻りはない。

 

 全ては決行の日を待つのみであった。

 

 しばし沈黙が流れる。

 

 やがて部下は静かに口を開いた。

 

 「……いよいよ、我々魚人が地上を支配する時が来るのですね」

 

 その言葉を聞いた瞬間――。

 

 グリムフィッシャーの口元が吊り上がる。

 

 「ああ。その通りだ」

 

 鋭い牙を覗かせながら笑った。

 

 「海は全ての生命の母」

 

 ゆっくりと両腕を広げる。

 

 「つまり海に生きる我々こそ、生物界の頂点に立つべき存在なのだ」

 

 その瞳には狂信にも似た光が宿っていた。

 

 「愚かな地上の生物共に思い知らせてやる」

 

 拳を握り締める。

 

 「誰が真の支配者なのかをな!」

 

 「ふははははははは!!」

 

 海底に響く高笑い。

 

 その声には揺るぎない自信が満ちていた。

 

 魚人達の目的は単なる侵略ではない。

 

 自らが全生命の頂点であると証明すること。

 

 それこそが彼らの悲願だった。

 

 「あの忌々しい勇者さえいなければ……」

 

 ふと、グリムフィッシャーの表情が歪む。

 

 脳裏に十年前の記憶が蘇ったのだろう。

 

 「十年前には既に地上を手中に収めていた」

 

 悔しげに歯を噛み締める。

 

 だが、その顔はすぐに笑みに変わった。

 

 「しかし、その勇者も今や消息不明」

 

 「姿を消してから十年」

 

 「生きているかどうかすら分からぬ」

 

 その言葉には確信があった。

 

 「これ以上ない好機だ」

 

 グリムフィッシャーは拳を見つめる。

 

 そこには十年前とは比較にならない力が宿っていた。

 

 「あの時負った傷もほぼ癒えた」

 

 「そして何より――」

 

 その瞳が妖しく輝く。

 

 「私は遂に『あの技』を習得した」

 

 側近の表情が変わる。

 

 その技がどれほど強力なのか知っているからだ。

 

 グリムフィッシャーはゆっくりと地上を見上げた。

 

 厚い海水の向こう。

 

 そこに存在する人間達の世界を。

 

 「今の私なら勇者が相手でも負けはせん」

 

 絶対的な自信。

 

 それは慢心ではない。

 

 長年積み重ねてきた実力から来る確信だった。

 

 「ならば今度こそ成功する」

 

 「いや――」

 

 拳を強く握り締める。

 

 「必ず成し遂げてみせる!」

 

 その宣言はまるで世界そのものに向けられているかのようだった。

 

 そして。

 

 グリムフィッシャーは天を仰ぐ。

 

 その先にいるであろう存在へ向かって。

 

 恭しく頭を下げた。

 

 「見ていてください、魔王様」

 

 狂信者のような熱が声に宿る。

 

 「このグリムフィッシャー」

 

 「必ずや地上を征服し――」

 

 「貴方様の理想とする世界の礎を築いてみせましょうぞ!」

 

 忠誠。

 

 尊敬。

 

 憧憬。

 

 その全てが込められた誓いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「待っていろ、人間共」

 

 グリムフィッシャーは獰猛に笑う。

 

 鋭い牙が不気味に光った。

 

 「『十死怪』にまで上り詰めたこの私の恐ろしさ」

 

 巨大な三叉槍を握り締める。

 

 「その身をもって思い知るがいい!!」

 

 「ふはははははははははははははは!!!!」

 

 狂気にも似た笑い声が海底へ轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十死怪。

 

 それは魔王軍最強格の怪物達にのみ与えられる称号。

 

 そして、その一角を担う魚人――グリムフィッシャー。

 

 彼が主導する【魔海の大行進《マリンズ・パレード》】は、今まさに動き出そうとしていた。

 

 無論、その事実をサダメ達が知る由もない。

 

 彼らはまだ、明日も今日と同じ平和な一日が続くと思っている。

 

 だが――。

 

 破滅への時計は既に動き始めていた。

 

 魔海の大行進、決行まで。

 

 残り十五時間。

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