それから十数分後。
なんとかマヒロを説得し終えたミオ達は、改めて海水浴を楽しんでいた。
「むむむ。やはり慣れぬでござるよ、ミオー」
「そのうち慣れるって。それと、絶対に人前で脱いだら駄目だからね?」
「おろろろ。ミオは厳しいでござる」
「いや、それが普通だから」
未だに納得しきれていないのか、マヒロは泳ぎながら不満げな声を漏らす。
普通の人間ならそんな発想には至らないのだろうが、どうにも彼女の感覚は他人と少しずれているらしい。
前々から羞恥心の薄さには不安を覚えていたものの、ここまでくると一人で海へ行かせるのは少々危険な気がする。
下手をすれば、人目を盗んで本当に脱ぎ出しかねない。
そのため、自分はなるべく彼女から目を離さないようにしていた。
監視しているようで多少気が引けるが、こればかりは仕方がない。
異性に見られる云々も問題ではあるが、それ以上に観光客で溢れる海水浴場で騒ぎを起こされる方が大問題だ。
『ふぃー。にしても気持ちいいねー』
一方その頃。
フィーはそんな騒動などどこ吹く風といった様子で、のんびりと平泳ぎをしながら海を満喫していた。
確かに気持ちは分からなくもない。
潮風は心地よく、波も穏やかだ。
これだけの景色を前にすれば、細かいことなど忘れてしまいそうになる。
「そういえばフィー。その魔道具って海の中でも普通に使えるのか?」
『ん?』
「水に濡れたら使えなくなったりしないのかなって思ってさ」
フィーが普段から身に着けている【
マスク型の魔道具であるそれは、彼女が会話するために欠かせない道具だ。
だが、水の中で使用して問題がないのか以前から少し気になっていた。
『あー、それなら大丈夫だよ。このマスク、特殊な素材で作られてるからね』
フィーは得意げに胸を張る。
『吸水速乾性がものすごく高いんだ。濡れてもすぐ乾くし、性能も落ちないから潜ったりしても全然平気だよ』
「へぇ。そんな便利な機能まで付いてるのか」
『えへへ。すごいでしょ?』
どこか誇らしげな様子で笑うフィー。
その反応を見る限り、かなりお気に入りの魔道具なのだろう。
しかし改めて考えると、言葉を発するだけでなく魔法まで使用できる上に、水中でも問題なく稼働する。
それだけの性能を持つ魔道具なのだから、相当高度な技術が詰め込まれているに違いない。
開発者の技術力には素直に感心してしまう。
「ねえねえ、フィーちゃん。せっかくだし、もう少し沖の方まで行ってみない?」
『おっ。いいねいいね!』
ミオの提案にフィーは即座に賛成した。
「二人とも、あんまり遠くまで行くなよ?」
「お前、お父さんみたいなこと言うなよ」
ギリスケが呆れたように笑う。
「ははは。たしかに」
ミオも思わず吹き出した。
「ミオー! 拙者も同行したいでござる!」
「いいよ。ほら、行こう!」
三人は楽しそうに沖の方へ泳ぎ出していく。
「昼飯までには戻って来いよー!」
「だからお父さんかよ!?」
再び飛んできたギリスケのツッコミに、その場は笑いに包まれた。
そうして自分達は、それぞれ思い思いに海を満喫する。
泳ぐ者もいれば、波打ち際で遊ぶ者もいる。
誰もが楽しい時間を過ごしていた。
少なくとも、その時までは。
穏やかな波の音。
どこまでも広がる青い海。
笑い声の絶えない賑やかなひと時。
誰もが今日一日、このまま楽しく終わるものだと思っていた。
――まさか、この後あんな事態に巻き込まれることになるとは、夢にも思わずに。