転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー25

 あれから数時間後。

 

 時刻は昼を迎え、海水浴場には朝以上の人が集まり始めていた。

 

 自分達もひとしきり遊んだ後、テントへ戻って昼食を取っていた。

 

 「ふう。拙者は満足でござる~」

 

 昼食を平らげたマヒロは、幸せそうな表情を浮かべながらその場に寝転がる。

 

 「マヒロー? 食べてすぐ横になったら牛になっちゃうよー?」

 

 「そんな迷信を真面目に信じる年齢でもないでござるよ」

 

 『でもマヒロちゃん、今日は本当にいっぱい食べてたよね』

 

 フィーが苦笑混じりに言う。

 

 言われてみれば、今日も彼女だけ明らかに食べる量が違っていた。

 

 朝食も相当な量を平らげていたはずなのに、昼になってもその勢いは衰えていない。

 

 このままでは旅行資金が食費だけで消し飛びそうな勢いだ。

 

 「今日の晩飯はどっかで魚でも釣ってくるか?」

 

 「そうだね。そろそろ節約しないと帰りの馬車賃まで怪しくなりそうだし」

 

 ギリスケの提案に思わず頷く。

 

 実際、昨日からの自分達は少々羽目を外し過ぎていた。

 

 せっかくの旅行だからと財布の紐を緩め続けた結果、懐事情が徐々に厳しくなってきている。

 

 今さらながら計画性のなさを痛感していた。

 

 「……そういえば」

 

 ふと以前から気になっていたことを思い出す。

 

 「ソンジさんって、研究とかで結構稼いでたりしないんですか?」

 

 「んん?」

 

 首を傾げるソンジさん。

 

 魔道具の研究者として優秀な彼女なら、開発した魔道具の利益でかなり儲けていても不思議ではない。

 

 それなのに、自分達と同じように金欠を心配しているのが少し意外だった。

 

 「あー、貯金自体はそれなりにあるよ?」

 

 ソンジさんは苦笑しながら肩を竦める。

 

 「でも研究って結構お金掛かるんだよ。素材代もそうだし、失敗したら全部無駄になるしね。しかも研究室は学園の設備を借りてるから、その維持費なんかも引かれちゃうんだ」

 

 「なるほど……」

 

 「魔道具の販売利益も大部分は学園に入るし、私の取り分なんて半分もないよ。だから意外と余裕ないんだよねー」

 

 その説明を聞いて納得する。

 

 考えてみれば当然だ。

 

 研究には設備が必要だし、試作品の製作にも費用が掛かる。

 

 成功した発明だけが世に出るが、その裏には数え切れない失敗があるはずだ。

 

 そうしたコストを考えれば、研究者という仕事は想像以上に大変なのかもしれない。

 

 むしろ、利益だけを見ればあまり割の良い仕事とは言えないのではないだろうか。

 

 「まっ、私は研究が楽しいから別に気にしてないけどね」

 

 ソンジさんはあっけらかんと言う。

 

 本人は本心からそう思っているのだろう。

 

 好きだから続けられる。

 

 そういう仕事なのかもしれない。

 

 とはいえ、傍から見ていると少しだけ損な役回りにも思えてしまう。

 

 だが本人が納得している以上、他人がとやかく言う話でもない。

 

 「ねえフィーちゃん。もうひと泳ぎしてこない?」

 

 『いいけど、もうちょっと休んでからにしない?』

 

 フィーは腹をさすりながら苦笑する。

 

 『流石に食べた直後は動く気になれないよー』

 

 「そっか。じゃあ私、一人で行ってくるね」

 

 そう言うとミオは立ち上がり、再び海へ向かって駆け出していった。

 

 相変わらず元気が有り余っている。

 

 午前中だけでも相当泳いでいたはずなのに、疲れた様子はまるで見えない。

 

 よほど海が気に入ったのだろう。

 

 楽しそうなのは良いことだが、流石に少し心配になる。

 

 泳ぎ過ぎて足を攣ったりしなければいいのだが。

 

 「ちょっと様子でも見てくるか……」

 

 万が一に備え、自分も海の方へ向かうことにした。

 

 ミオの姿を目で追いながら歩き始めた、その時だった。

 

 ふと、妙な違和感を覚える。

 

 「……あれは」

 

 足を止め、沖の方へ視線を向ける。

 

 先程まで晴れ渡っていたはずの空。

 

 どこまでも青く広がっていた水平線。

 

 その遥か先で、黒々とした雲がゆっくりと広がり始めていた。

 

 まるで青空を飲み込むかのように。

 

 最初は気のせいかと思った。

 

 だが、その不気味な雲は確実にこちらへ近付いてきている。

 

 胸の奥に、言いようのない嫌な予感が広がった。

 

 海風は変わらず吹いている。

 

 周囲には楽しそうな笑い声も響いている。

 

 それなのに――。

 

 何かがおかしい。

 

 そう直感した自分は、無意識のうちに黒雲を睨みつけていた。

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