「おい、ガキどもがいねぇぞ!?」
「クソガキども、どこへ行きやがった!」
建物の影に身を潜め、聞き耳を立てる。
やはり――自分たちが消えたことには気づかれていた。
いつもなら子供の様子など気にも留めない連中だ。
それが今は血眼になって探している。
本当に、皆殺しにするつもりだったのだろう。
「さて……どう引きつけるか」
隠れたまま思考を巡らせる。
わざと見つかって逃げる手もある。だが、魔物は三十以上。
散られて包囲されれば終わりだ。
なら、一体ずつ誘い出して落とすか。
――いや、現実的じゃない。
視線が腰の業火剣《ヘルファード》へ落ちる。
気絶させるより、斬る方が早い。
「ガキを見つけたら、殺して構わん!」
「ッ!」
魔物たちが捜索に散ろうとする。
まずい。動かれる前に、こちらが動かねばならない。
そう決めて踏み出しかけた瞬間――
「……クッソ、めんどくせぇことになりやがった」
「ッ!?」
自分を監禁していた魔物が、こちらへ歩いてくる。
反射的に身を引っ込める。
見られてはいない。だが心臓が嫌な音を立てた。
「……はあ、はあ……」
息が荒くなる。
落ち着け。そう言い聞かせるほど、鼓動が速くなる。
足音が近い。
十メートルもない。
――ここで見つかれば、全て終わる。
「……」
剣を握る手に汗が滲む。
逃げるか。誘い出すか。
迷いが、一瞬で消えた。
――殺す。
そう決めた時には、魔物は視界に入っていた。
踏み込み、心臓へ突きを放つ。
――その瞬間。
世界が、遅くなった。
自分の動きも、相手の動きも、まるで水の中のように鈍い。
なのに思考だけが、妙に冴えている。
――これは、何だ?
疑問が浮かんだ刹那、
もう一度、世界が“戻った”。
「ぐへっ!?」
剣は魔物を外れ、虚空を突く。
勢い余って地面に転がり、肘を打つ。
痛みで指が痺れ、剣が手から落ちた。
――最悪だ。
「おい」
低く、腹の底に響く声。
背筋が凍る。
本能が告げていた――これは、死ぬ相手だ と。
「どうやって抜け出したかはどうでもいい」
「……」
「今、何をしようとした?」
答えられない。
喉が張り付き、声が出ない。
「言わなくても分かる。俺を殺そうとしたんだろ?」
その通りだった。
だが――
今なら理解できる。
剣が当たらなかった理由。
――恐怖で、身体が拒絶したのだ。
「人間のクソガキが……いい度胸じゃねぇか」
思い上がっていた。
魔物は倒せる。
自分も、父のように戦える。
そんなものは、幻想だった。
殺したこともない。
斬り合ったこともない。
ただの人間が、魔物に勝てるはずがない。
「俺を殺そうとしたなら――」
魔物が笑う。
牙の奥まで見える笑み。
「てめぇも、殺される覚悟は出来てんだよなぁ?」
恐る恐る見上げた顔は――
――人が抗える存在ではないと、
心の奥に刻み込むほどの恐怖だった。