『魔物って……えっ? う、嘘でしょ……?』
自分の言葉を聞いたフィーは、見る見るうちに顔を青ざめさせた。
無理もない。
だが、自分もあの光景を目の当たりにした以上、それ以外の可能性など思い浮かばなかった。
「たしかに、あれは魚人系統の魔物で間違いなさそうだね」
双眼鏡を覗いていたソンジさんも険しい表情で呟く。
「サイズは二メートルを超えてる。しかも明らかに群れを成して移動してるね。こっちへ向かって来てるのは間違いないよ」
『そ、そんなぁ……』
フィーの声が震える。
自分の嫌な予感は、ますます現実味を帯び始めていた。
その時だった。
ウィィィィィン――
突如、村中に警報音が鳴り響く。
周囲にいた海水浴客達も一斉に顔を上げた。
『緊急警報! 緊急警報! 現在、沖合より約五百体の魔物の群れが接近中です! 付近の皆様は直ちに避難してください! 繰り返します――』
「ッ!? 五百体だと!?」
思わず声が漏れる。
予感は最悪の形で的中した。
だが、衝撃だったのは襲撃そのものではない。
その数だ。
五百。
いくら何でも異常な数だった。
小規模な軍隊に匹敵すると言っても過言ではない。
「マジかよ!? この村って結界張ってあるんじゃなかったのか!?」
ギリスケも驚愕を隠せない様子だった。
その疑問はもっともだ。
この海水浴場は魔物を寄せ付けない特殊な結界によって安全が保証されていたはずだった。
だからこそ多くの観光客が訪れていたのだ。
それなのに、今こうして魔物の大群が押し寄せている。
一体何が起きている?
「結界が破られたか、あるいは消失したか。そのどちらかだろうね」
冷静な声が響く。
ソンジさんだった。
「魔物側が結界を突破する方法を手に入れたのか。それとも管理側に何らかの不備があったのか。理由までは分からない」
そう言いながらも、彼女の視線は鋭い。
「でも一つだけ確かなことがある。この場所はもう安全じゃない」
その言葉に誰も反論できなかった。
「早く避難した方がいいね」
いつもは飄々としているソンジさんだが、今は驚くほど落ち着いている。
その冷静さのおかげで、自分も少しだけ頭が冷えた。
そうだ。
考察は後だ。
まずは安全を確保しなければならない。
だが――
自分にはもう一つ気掛かりがあった。
「俺はミオを連れて行きます!」
即座に皆へ向き直る。
「みんなは先に避難してください! 俺もすぐ戻ります!」
『サダメ!?』
『気を付けてねー!?』
フィーが不安そうな声を上げる。
「ああ」
短く返事をする。
本当なら皆で探した方が安全なのかもしれない。
だが今の海岸は大混乱に陥っていた。
警報を聞いた観光客達が一斉に逃げ出し、人の流れがあちこちで交錯している。
この状況で固まって行動すれば、かえって誰かを見失う危険がある。
それなら自分一人で探した方が早い。
幸い、魔力感知も使える。
ミオを見つけるだけなら、それほど時間は掛からないはずだ。
――そう信じたかった。
「それじゃ行ってくる!」
言い残し、自分は砂浜を蹴った。
逃げ惑う人々の間を縫うように駆け抜ける。
目指す先は海岸。
ミオがいるはずの場所だ。
不吉な黒雲が空を覆い始める中、自分はただ一人、海へ向かって走り出した。