「大丈夫でござるか、ミオ?」
「う、うん……ありがとう、マヒロ」
ミオを救出したマヒロは、着地するなり彼女の無事を確認した。
ミオもまだ顔色こそ優れないものの、どうやら大きな怪我はなさそうだった。
その様子を見て、ようやく少しだけ胸を撫で下ろす。
だが、それでも自分の足は止まらなかった。
「ミオ!! 大丈夫か!?」
息を切らしながら駆け寄る。
するとミオは、こちらを見て安心したように微笑んだ。
「サダメ……。うん、私は大丈――」
最後まで言わせなかった。
気付けば、自分は彼女を強く抱き締めていた。
「よかった……!」
震える声が漏れる。
「本当によかった……!」
腕の中から確かな体温が伝わってくる。
鼓動が聞こえる。
呼吸もしている。
生きている。
その当たり前の事実が、今は何よりも嬉しかった。
「さ、サダメ!?」
突然抱き締められたミオは大きく目を見開く。
「お、おおお落ち着いて!? 気持ちは嬉しいけど、そんなに強くされたら……!」
だが、その言葉すらほとんど耳に入らない。
胸の奥に溜まっていた恐怖と安堵が一気に押し寄せていた。
もしあと少し遅れていたら。
もしマヒロが間に合わなかったら。
そう考えるだけで全身が震える。
「ごめん……」
自然と声が漏れた。
「えっ?」
「ごめんな、ミオ……」
抱き締める腕に力が入る。
「俺が油断したせいで、お前にあんな怖い思いをさせた」
声が震える。
「本当に……ごめん」
自分の不甲斐なさが情けなかった。
もっと早く異変に気付いていれば。
もっと強ければ。
もっと周囲を警戒していれば。
彼女があんな目に遭うことはなかったかもしれない。
守ると決めた相手を、危うく失うところだった。
その事実が重く胸にのしかかる。
「サダメ……」
ミオは小さく呟く。
そして、今度は自分の背中へそっと腕を回した。
「ううん」
優しい声だった。
「サダメは悪くないよ」
「……」
「むしろ私の方こそ、ごめんなさい」
ミオは申し訳なさそうに続ける。
「私が我儘言って残ったせいで、サダメに心配かけちゃった」
「ミオ……」
「もう無茶しないようにするから」
その言葉は本心なのだろう。
だからこそ、自分も首を横に振った。
「いや」
静かに答える。
「我儘くらいなら言っていい」
「えっ?」
「でも、自分から危険な場所に飛び込むのだけはやめてくれ」
それだけだった。
我儘を言うことが悪いとは思わない。
助けたいと思う優しさも、ミオの長所だ。
ただ――
彼女には生きていてほしい。
それだけだった。
「……うん」
胸元から小さな返事が聞こえる。
顔は見えない。
けれど、微かに肩が震えているのが分かった。
泣いているのかもしれない。
しばらくの間、二人とも何も言わなかった。
ただ、お互いの無事を確かめるように抱き締め合っていた。
やがて。
「……ねえ、サダメ」
ミオがおずおずと口を開く。
「ん?」
「一つだけ、我儘言ってもいい?」
「なんだ?」
少し間を置いて。
彼女は小さな声で言った。
「もう少しだけ、このままでいてくれる?」
「……ああ」
断る理由なんてなかった。
「それくらいなら」
そう答えると、ミオは嬉しそうに身を寄せる。
「……えへへ」
幸せそうな笑い声が聞こえた。
きっと今、彼女も安心しているのだろう。
そう思った、その時だった。
「……あのー、二人共」
「「ッ!?」」
不意に横から声が飛んできた。
二人同時に硬直する。
恐る恐る視線を向けると。
そこには腕を組んだマヒロが立っていた。
「お取り込み中、大変申し訳ござらぬが」
マヒロは海の方を指差す。
「魔物がすぐそこまで迫って来ているでござるよ?」
「……」
「……」
二人の思考が止まる。
数秒後。
「お、おう!? そうだったな!?」
「ううううん! は、早く逃げないとだよね!?」
慌てて離れる。
さっきまでの空気が一瞬で吹き飛んだ。
というか。
冷静になって考えてみれば、自分達は大勢の人間が避難している真っ最中に抱き合っていたのである。
しかも、その様子をマヒロにしっかり見られていた。
そう気付いた瞬間。
顔が一気に熱くなる。
恐らくミオも同じだろう。
彼女の顔は耳まで真っ赤になっていた。
先程まで死の恐怖に晒されていたというのに。
今度は別の意味で心臓が激しく鼓動している自分達なのであった。