「ふう。二人共、助かったでござるよ」
「いや、マヒロがいなかったら危なかったし、お礼を言うのはこっちの方だよ」
「ああ。その通りだな」
クラーケンの猛攻を凌ぎ、ようやく一息つく。
ミオの言う通りだ。マヒロが駆け付けてくれなければ、自分達は今頃どうなっていたか分からない。本当に助かった。
「にしても、大きいでござるな。この触手。これだけあれば今晩の夕餉には十分だと思うのでござるが」
「……やめとけ。なんか腹壊しそうだし」
「むむむ。サダメが言うなら仕方あるまい」
しかし、斬り落とした触手を食べようとしているのは流石に引いた。
魔物だって食べられないことはないのかもしれない。だが、少なくとも今の自分にそんな気は起きなかった。
何より、あの巨大な吸盤を見ていると食欲が失せる。見た目からして危険そうだし、口にしない方が身のためだろう。
自分が止めると、マヒロは名残惜しそうな表情を浮かべながらも諦めてくれた。
よくもまあ、こんな気味の悪いものを食べようと思ったな。
「それより、早く移動しないと。魔物達ももうすぐ上陸しそうだし、さっきみたいに伏兵が隠れていてもおかしくない」
「そうでござるな。早急に皆と合流しようでござる」
雑談している場合ではない。
海上では無数の魔物達がこちらへ向かって進軍を続けている。もう間もなく砂浜へ到達するだろう。
あれだけの大群に包囲されたら、いくらマヒロがいても無事では済まない。
自分達は急ぐようにその場を離れようとした。
その時だった。
「ッ!?」
突如、背後から不穏な魔力を感じ取る。
反射的に振り返った自分は目を見開いた。
「クッ!」
「「マヒロ!?」」
一番後ろを走っていたマヒロが、白い触手に拘束されていたのだ。
腰に一本。
両腕に二本。
両足に二本。
計五本もの触手が彼女の身体へ絡み付き、その自由を奪っている。
嘘だろ。
さっきまで確認していた触手は八本だったはずだ。
もしかして、あれで全部じゃなかったのか?
自分は瞬時に状況を整理する。
今マヒロを拘束している触手は五本。
先程斬り落とした触手は八本。
合わせて十三本。
十本ならまだ分かる。だが十三本というのはあまりにも中途半端だった。
そもそも、あれだけの巨体なら触手の本数が多少多くても不思議ではない。
だが、どこか嫌な予感がする。
まるで――。
ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
「ッ!?」
海を震わせるような咆哮が響き渡った。
次の瞬間、海面が大きく盛り上がる。
轟音と共に現れたのは、巨大な白いイカのような魔物だった。
間違いない。
自分達を襲っていた触手の本体だ。
十メートルを超えているだろうとは予想していた。
だが、実際にその姿を目の当たりにすると圧倒される。
まるで小さな船がそのまま生き物になったかのような巨体だった。
「なっ……!?」
しかし、本当に驚くべきものは別にあった。
巨大なクラーケンの背後。
荒れ狂う海面を突き破り、もう一体の巨大な影が姿を現したのだ。
白い巨体。
無数の触手。
同じ咆哮。
見間違えるはずがない。
クラーケンが――もう一体いた。
これほどの巨体を誇る魔物が二体も潜んでいたというのか。
自分の背筋を冷たいものが走る。
先程感じた違和感。
十三本という不自然な触手の数。
その答えは、あまりにも単純だった。
触手が多かったのではない。
二体分だったのだ。