「ぐっ!?」
「マヒロ!?」
「くそっ!? もう一体いやがったのかよ!」
二体目のクラーケンが姿を現し、俺達は完全に虚を突かれた。
一体目は触手を全て斬り落とされている。だが、もう一体は違う。
八本全ての触手が健在。
しかも、そのうち五本がマヒロの身体を拘束していた。
最悪だ。
あれほどの巨体を誇る魔物が二体も潜んでいたなど、誰が予想できる。
「ぐぬぬぬ……! 解けぬ!」
拘束されたマヒロが力任せに触手を引き剥がそうとする。
だが、びくともしない。
「ッ! 待ってろマヒロ! 今助け――」
俺は即座に業火剣《ヘルファード》を発動しようとした。
だが――。
『愚かな人間どもめ! よくも私の可愛い使い魔を傷付けてくれたな!』
「なっ!?」
「しゃ、喋った!?」
突然、海の方角から怒声が響いた。
思わず動きを止める。
視線の先にいるのは二体のクラーケンのみ。
まさか、こいつらが喋ったのか?
いや、違う。
今の言葉に違和感があった。
――私の使い魔。
確か、そう言わなかったか?
「ふん。まさかただの子供風情に、この立派な触手を斬られるとはな」
「ッ! 誰だ!?」
次の瞬間だった。
触手を失ったクラーケンの口が大きく開く。
そして、その中から一つの人影が姿を現した。
いや、人影ではない。
そいつは人型をしていながら、その頭部は巨大なイカそのものだった。
ぬらりとした皮膚。
長く垂れた触腕。
不気味な光を宿す瞳。
クラーケンの巨体の前では小さく見えるが、それでも身長は二メートル近くあるだろう。
異様な威圧感を放つ魔物だった。
「私の名はスクイッド」
イカの魔物は胸に手を当て、芝居がかった仕草で一礼する。
「海滅隊の副官を務めている者だ。ちなみに、この子達は私が使役している使い魔でな」
そう言いながら、背後のクラーケンへ愛おしそうな視線を向けた。
「海滅隊……?」
聞いたことのない名前だった。
だが、副官と言った以上、どこかの組織なのだろう。
疑問は次々と浮かぶ。
なぜ結界を突破できたのか。
いつから潜伏していたのか。
どうやってこれほどの軍勢を集めたのか。
だが――。
今、聞くべきことは一つだけだった。
「お前ら、一体何を企んでる?」
俺は剣を構えたまま睨み付ける。
海上には未だ無数の魔物達が押し寄せている。
ただ獲物を求めているだけには見えなかった。
その動きはあまりにも統率されている。
結界が偶然消えたから攻め込んだ。
そんな単純な話ではない。
最初からこの日のために準備していた。
そう考えた方が自然だった。
ならば、その目的は何だ。
村を襲うことか。
人間を殺すことか。
それとも――。
「ふっふっふっ……」
スクイッドは肩を震わせながら笑う。
その笑みには隠しきれない愉悦が滲んでいた。
「いいだろう。特別に教えてやる」
そう言って両腕を広げる。
まるで舞台役者が観客へ演説するかのように。
背後では二体のクラーケンが咆哮を上げ、海が大きく揺れていた。
「我々海滅隊の目的――」
一瞬の静寂。
そしてスクイッドは、誇らしげに叫んだ。
「それは地上を支配することだ!」