転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー35

 「ぐっ!?」

 

 「マヒロ!?」

 

 「くそっ!? もう一体いやがったのかよ!」

 

 二体目のクラーケンが姿を現し、俺達は完全に虚を突かれた。

 

 一体目は触手を全て斬り落とされている。だが、もう一体は違う。

 

 八本全ての触手が健在。

 

 しかも、そのうち五本がマヒロの身体を拘束していた。

 

 最悪だ。

 

 あれほどの巨体を誇る魔物が二体も潜んでいたなど、誰が予想できる。

 

 「ぐぬぬぬ……! 解けぬ!」

 

 拘束されたマヒロが力任せに触手を引き剥がそうとする。

 

 だが、びくともしない。

 

 「ッ! 待ってろマヒロ! 今助け――」

 

 俺は即座に業火剣《ヘルファード》を発動しようとした。

 

 だが――。

 

 『愚かな人間どもめ! よくも私の可愛い使い魔を傷付けてくれたな!』

 

 「なっ!?」

 

 「しゃ、喋った!?」

 

 突然、海の方角から怒声が響いた。

 

 思わず動きを止める。

 

 視線の先にいるのは二体のクラーケンのみ。

 

 まさか、こいつらが喋ったのか?

 

 いや、違う。

 

 今の言葉に違和感があった。

 

 ――私の使い魔。

 

 確か、そう言わなかったか?

 

 「ふん。まさかただの子供風情に、この立派な触手を斬られるとはな」

 

 「ッ! 誰だ!?」

 

 次の瞬間だった。

 

 触手を失ったクラーケンの口が大きく開く。

 

 そして、その中から一つの人影が姿を現した。

 

 いや、人影ではない。

 

 そいつは人型をしていながら、その頭部は巨大なイカそのものだった。

 

 ぬらりとした皮膚。

 

 長く垂れた触腕。

 

 不気味な光を宿す瞳。

 

 クラーケンの巨体の前では小さく見えるが、それでも身長は二メートル近くあるだろう。

 

 異様な威圧感を放つ魔物だった。

 

 「私の名はスクイッド」

 

 イカの魔物は胸に手を当て、芝居がかった仕草で一礼する。

 

 「海滅隊の副官を務めている者だ。ちなみに、この子達は私が使役している使い魔でな」

 

 そう言いながら、背後のクラーケンへ愛おしそうな視線を向けた。

 

 「海滅隊……?」

 

 聞いたことのない名前だった。

 

 だが、副官と言った以上、どこかの組織なのだろう。

 

 疑問は次々と浮かぶ。

 

 なぜ結界を突破できたのか。

 

 いつから潜伏していたのか。

 

 どうやってこれほどの軍勢を集めたのか。

 

 だが――。

 

 今、聞くべきことは一つだけだった。

 

 「お前ら、一体何を企んでる?」

 

 俺は剣を構えたまま睨み付ける。

 

 海上には未だ無数の魔物達が押し寄せている。

 

 ただ獲物を求めているだけには見えなかった。

 

 その動きはあまりにも統率されている。

 

 結界が偶然消えたから攻め込んだ。

 

 そんな単純な話ではない。

 

 最初からこの日のために準備していた。

 

 そう考えた方が自然だった。

 

 ならば、その目的は何だ。

 

 村を襲うことか。

 

 人間を殺すことか。

 

 それとも――。

 

 「ふっふっふっ……」

 

 スクイッドは肩を震わせながら笑う。

 

 その笑みには隠しきれない愉悦が滲んでいた。

 

 「いいだろう。特別に教えてやる」

 

 そう言って両腕を広げる。

 

 まるで舞台役者が観客へ演説するかのように。

 

 背後では二体のクラーケンが咆哮を上げ、海が大きく揺れていた。

 

 「我々海滅隊の目的――」

 

 一瞬の静寂。

 

 そしてスクイッドは、誇らしげに叫んだ。

 

 「それは地上を支配することだ!」

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