「くっ!?」
「おらどうしたぁ!! そんな軟弱な動きで俺を殺せると思ったのかー?!」
魔物は怒りのまま棍棒を振るってくる。自分は慌てて剣を拾い上げるが、後ずさりしながらそれを受け流すので精一杯だった。気圧され、攻めに転じる隙を見いだせず、防戦一方の状態が続く。
完全に自分の落ち度だ。こいつらならなんとかできると、相手を見くびっていた。こいつらに散々な思いをさせられていたことを、今になって思い出す。こいつらは雑魚なんかじゃない。十分な脅威だ。
作戦決行の少し前、
今、奴がいない間に村を出る。それが最善策だと思っていたが、現実はそう甘くなかったと痛いほど思い知る。
「おらぁ!!」
「ッ!?」
しかし、今さら反省してもどうにもならない。どのみち大人しく待っていても殺されるのは目に見えていた。
まずは目の前のこいつをなんとかしなければ。そう思うのに、手の震えが止まらない。攻撃を受け流し続けているせいもあるだろうが、身体から恐怖が抜け切っていない。くそ、自分の身体ながら不甲斐ない。
だが、このままでは作戦が遂行できない。ミオたちが見つかるのもまずいし、この状態で他の魔物と遭遇したら、こちらが危うい。早くこいつを片付けないと。
「これなら、どうだっ!?」
「ぐっ?!」
魔物は棍棒を大きく振りかざした。この一撃は受けたらまずい。本能がそう告げる。さっきまでの振り回すだけの攻撃とは違う。この一撃は明確に殺しに来ている。これを受ければ、下手をすれば死ぬ。そう思わせる構えだった。
ダメだ、脱兎跳躍で避けなければ――。
頭では理解していた。だが身体は言うことを聞かない。後ずさるだけで、これでは回避に間に合わない。
「死ねやぁぁっ!!」
「くっ、そ!」
魔物が棍棒を振り下ろす。脱兎跳躍が間に合わないと判断した自分は、ふらつく身体を無理やり動かし、側面へ回り込む。それが精一杯だった。
「ぐっ?!」
攻撃は回避したが、振り下ろされた一撃が地面を叩き、コンクリートの欠片と土が勢いよく飛び散る。自分は反射的に腕と剣で顔を覆い、直撃を防いだ。
「馬鹿がっ!」
「ッ!?」
だが反対側から拳が襲いかかってきていた。しまった、反対ががら空きだ。あの一撃はフェイントだったのか。
「死ねっ!」
駄目だ、防ぎきれ――
「ッ!?」
顔面に重い拳が入る。鈍い音とともに口から血の塊が飛び散り、地面を汚した。
「ヒハハハハハッ! これで思い知ったか、クソガキ!?」
痛い。いや、痛くない? わからない。脳を揺らされ、頭がくらくらする。そのせいで痛覚が麻痺したのだろうか。
「ヒハ……ッ! 次で……終わりだ!」
頭が揺れていて、奴の言葉ははっきり聞こえない。それでも意味はわかる。次で終わらせる――そう言っているのだろう。
「今度こそ、死ねっ!!」
「……」
奴は再び殴りかかろうとしていた。次を受ければ本気でまずい。いや――そんなことは、もうどうでもよかった。
「おらぁっ!!」
「……」
もう一発を受ける。今度は額から血が流れ始めた。
「なっ?!」
だが、まったく痛みを感じない。殴られても微動だにしなかった。今度は脳震盪も起きていない。
そうか。痛みを感じないのは頭を殴られたせいだけじゃない。こいつに何度も殴られて、殴られ慣れしたんだ。
「……痛くねーよ」
「……は?」
それなら好都合だ。こいつを恐れる必要はもうない。
「ぜんっっっぜん、痛くねーよォッ!!」
「ッ?!」
吹っ切れた瞬間、自分の手から震えが消える。これなら――
「て、てめぇ……」
奴を殺せる。
そう思った瞬間、自分は突きの構えを取っていた。もう恐怖はない。あとは、この一撃を決めるだけ。
「……死ね」
その一言と同時に、剣を奴の心臓へ突き刺す。
「ッ?! がはっ?!」
奴は自分の豹変に驚いたのか、棒立ちのまま。その胸に、自分の剣が深々と突き立った。