「地上を……支配?」
「ああ!」
スクイッドは誇らしげに胸を張る。
「今回の我々の作戦――【
「……正気かよ?」
思わずそんな言葉が漏れた。
マリンズ・パレードとかいう作戦名も気になる。
だが、それ以上に理解できないのは目的だ。
最強を証明したいから地上を支配する。
それだけの理由で戦争を始めるつもりなのか。
呆れるを通り越して、本気で頭を疑った。
「もちろん正気だとも」
スクイッドは即答した。
その口調に迷いは一切ない。
「そして我々には勝機がある」
「……」
言葉を失った。
ある意味では恐怖すら覚える。
その自信満々な態度にではない。
ここまで本気で馬鹿なことを言っていることに対してだ。
「……馬鹿じゃねぇのか、お前ら」
「ん?」
気付けば本音が口から飛び出していた。
いや、飛び出さずにはいられなかった。
「人間を舐めすぎだろ」
俺はスクイッドを睨み付ける。
「確かに海の中ならお前らが強いかもしれねぇ。でも陸に上がった時点で話は別だ」
スクイッドは黙って聞いている。
「仮にこの村を潰せたとしても、それで終わりじゃない。世の中には化け物みたいに強い人間がごろごろいるんだよ」
俺の脳裏に学園の教師達の顔が浮かぶ。
オーヴェン先生。
学園長。
その他の教師陣。
正直な話、あの人達がここにいたら、この魚人共が浜辺に上陸する前に終わっていたかもしれない。
「人類全部を敵に回すってことがどういう意味か分かってんのか?」
俺は吐き捨てるように言った。
「下手したら全滅するのはお前らの方だぞ」
地上を支配する。
口で言うのは簡単だ。
だが、それは人類全体との全面戦争を意味する。
海中という最大の利点を捨ててまで挑むには、あまりにも無謀な話だった。
だからこそ断言できる。
こいつらの野望は絶対に成功しない。
敗因があるとすればただ一つ。
人類を甘く見すぎていることだ。
「…………ふっ」
その時だった。
スクイッドが肩を震わせる。
「ふふっ……はははははっ!」
やがて堪えきれなくなったように大声で笑い始めた。
「……何がおかしい?」
俺は眉をひそめる。
まさか本当に頭がおかしくなったのか。
「人間を舐めているだと?」
スクイッドは笑いながら言った。
「はっ。それは貴様らの方だろう」
「何?」
予想外の返答だった。
馬鹿にされているのは魚人達の方だと思っていた。
だが、スクイッドは違うと言う。
むしろ侮っているのは俺達の方だと。
意味が分からない。
俺はただ事実を述べただけだ。
人類には強者がいる。
それは紛れもない事実だ。
どこに見誤る要素がある。
「貴様らは何も理解していない」
スクイッドは冷笑を浮かべた。
「陸上が人類の得意な戦場であることなど百も承知だ」
「だったら――」
「ならば何故」
俺の言葉を遮り、スクイッドは両腕を広げた。
「我々がわざわざ地上へ侵攻しようとしているのか分かるか?」
「……」
答えられなかった。
確かにおかしい。
海中で戦えば圧倒的に有利なはずだ。
それなのに奴らは自ら陸へ上がろうとしている。
まるで――。
地上で戦っても負けない確信があるかのように。
「我々海滅隊を率いる偉大なる王」
スクイッドの声音が熱を帯びる。
狂信者が神を語るように。
絶対の忠誠を捧げる臣下が王を称えるように。
「魚人族の王、グリムフィッシャー様は――」
一瞬の静寂。
そしてスクイッドは誇らしげに叫んだ。
「地上を制する術をお持ちなのだからな!」