転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー36

 「地上を……支配?」

 

 「ああ!」

 

 スクイッドは誇らしげに胸を張る。

 

 「今回の我々の作戦――【魔海の大行進(マリンズ・パレード)】によって地上へ侵攻し、世界を支配する。そして魚人族こそ最強の種族であることを全世界へ知らしめるのだ!」

 

 「……正気かよ?」

 

 思わずそんな言葉が漏れた。

 

 マリンズ・パレードとかいう作戦名も気になる。

 

 だが、それ以上に理解できないのは目的だ。

 

 最強を証明したいから地上を支配する。

 

 それだけの理由で戦争を始めるつもりなのか。

 

 呆れるを通り越して、本気で頭を疑った。

 

 「もちろん正気だとも」

 

 スクイッドは即答した。

 

 その口調に迷いは一切ない。

 

 「そして我々には勝機がある」

 

 「……」

 

 言葉を失った。

 

 ある意味では恐怖すら覚える。

 

 その自信満々な態度にではない。

 

 ここまで本気で馬鹿なことを言っていることに対してだ。

 

 「……馬鹿じゃねぇのか、お前ら」

 

 「ん?」

 

 気付けば本音が口から飛び出していた。

 

 いや、飛び出さずにはいられなかった。

 

 「人間を舐めすぎだろ」

 

 俺はスクイッドを睨み付ける。

 

 「確かに海の中ならお前らが強いかもしれねぇ。でも陸に上がった時点で話は別だ」

 

 スクイッドは黙って聞いている。

 

 「仮にこの村を潰せたとしても、それで終わりじゃない。世の中には化け物みたいに強い人間がごろごろいるんだよ」

 

 俺の脳裏に学園の教師達の顔が浮かぶ。

 

 オーヴェン先生。

 

 学園長。

 

 その他の教師陣。

 

 正直な話、あの人達がここにいたら、この魚人共が浜辺に上陸する前に終わっていたかもしれない。

 

 「人類全部を敵に回すってことがどういう意味か分かってんのか?」

 

 俺は吐き捨てるように言った。

 

 「下手したら全滅するのはお前らの方だぞ」

 

 地上を支配する。

 

 口で言うのは簡単だ。

 

 だが、それは人類全体との全面戦争を意味する。

 

 海中という最大の利点を捨ててまで挑むには、あまりにも無謀な話だった。

 

 だからこそ断言できる。

 

 こいつらの野望は絶対に成功しない。

 

 敗因があるとすればただ一つ。

 

 人類を甘く見すぎていることだ。

 

 「…………ふっ」

 

 その時だった。

 

 スクイッドが肩を震わせる。

 

 「ふふっ……はははははっ!」

 

 やがて堪えきれなくなったように大声で笑い始めた。

 

 「……何がおかしい?」

 

 俺は眉をひそめる。

 

 まさか本当に頭がおかしくなったのか。

 

 「人間を舐めているだと?」

 

 スクイッドは笑いながら言った。

 

 「はっ。それは貴様らの方だろう」

 

 「何?」

 

 予想外の返答だった。

 

 馬鹿にされているのは魚人達の方だと思っていた。

 

 だが、スクイッドは違うと言う。

 

 むしろ侮っているのは俺達の方だと。

 

 意味が分からない。

 

 俺はただ事実を述べただけだ。

 

 人類には強者がいる。

 

 それは紛れもない事実だ。

 

 どこに見誤る要素がある。

 

 「貴様らは何も理解していない」

 

 スクイッドは冷笑を浮かべた。

 

 「陸上が人類の得意な戦場であることなど百も承知だ」

 

 「だったら――」

 

 「ならば何故」

 

 俺の言葉を遮り、スクイッドは両腕を広げた。

 

 「我々がわざわざ地上へ侵攻しようとしているのか分かるか?」

 

 「……」

 

 答えられなかった。

 

 確かにおかしい。

 

 海中で戦えば圧倒的に有利なはずだ。

 

 それなのに奴らは自ら陸へ上がろうとしている。

 

 まるで――。

 

 地上で戦っても負けない確信があるかのように。

 

 「我々海滅隊を率いる偉大なる王」

 

 スクイッドの声音が熱を帯びる。

 

 狂信者が神を語るように。

 

 絶対の忠誠を捧げる臣下が王を称えるように。

 

 「魚人族の王、グリムフィッシャー様は――」

 

 一瞬の静寂。

 

 そしてスクイッドは誇らしげに叫んだ。

 

 「地上を制する術をお持ちなのだからな!」

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