転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー37

 「グリムフィッシャー? それがお前らの親玉か?」

 

 「ああ、その通りだ」

 

 スクイッドは誇らしげに胸を張った。

 

 「我らが王、グリムフィッシャー様は十死怪にまで登り詰めた偉大なるお方。あの方が再び敗北することなどあり得ん」

 

 「ッ!? 十死怪だと!?」

 

 思わず声が裏返る。

 

 十死怪。

 

 その名を知らない者はほとんどいない。

 

 魔王軍最高戦力。

 

 魔王に認められた十体の怪物達。

 

 以前遭遇したエイシャやダークボルトもその一角だった。

 

 つまり――。

 

 今回の事件の首謀者は、あのクラスの化け物だということになる。

 

 「ふふふ。どうやら恐れをなしたようだな」

 

 スクイッドが愉快そうに笑う。

 

 「無理もない。十死怪とは魔物達の頂点に立つ存在。実力だけでなく、数々の功績を積み重ね、魔王様に認められた者だけが辿り着ける地位なのだから」

 

 「……」

 

 どうやら俺が驚いた反応を恐怖だと勘違いしているらしい。

 

 もちろん警戒はしている。

 

 だが、だからといって絶望しているわけじゃない。

 

 確かに十死怪は強い。

 

 しかし、人類側にも対抗できる強者はいる。

 

 勇者はかつて十死怪達と渡り合っていた。

 

 オーヴェン先生や学園長だって、そう簡単に負けるような相手ではないはずだ。

 

 問題は別にあった。

 

 俺の頭から離れないのは、先程の発言だ。

 

 ――地上を制する術。

 

 その言葉が妙に引っ掛かる。

 

 単純に力押しで侵攻するだけなら、「最強の力」や「無敵の魔法」とでも言えばいい。

 

 だがスクイッドは違った。

 

 わざわざ『地上を制する術』と言ったのだ。

 

 まるで勝つための手段が別に存在するかのように。

 

 地上戦に特化した秘策か。

 

 特殊な魔道具か。

 

 あるいは結界を破った時のような未知の術式か。

 

 嫌な予感しかしない。

 

 「ぐぬぬぬぬ……!」

 

 「ッ!」

 

 その時だった。

 

 苦しそうな声が耳に飛び込んでくる。

 

 マヒロだ。

 

 拘束されたまま必死に触手を引き剥がそうとしている。

 

 しまった。

 

 考え事に意識を奪われていた。

 

 今は推理なんてしている場合じゃない。

 

 優先すべきは彼女の救出だ。

 

 「ごめん、マヒロ! 今助ける!」

 

 俺は即座に業火剣《ヘルファード》を発動する。

 

 狙うのは触手。

 

 一瞬で斬り落とせば――。

 

 「おっと」

 

 だが。

 

 スクイッドの声が俺の動きを止めた。

 

 「妙な真似はしない方がいい」

 

 「……何?」

 

 嫌な予感が走る。

 

 スクイッドは薄気味悪い笑みを浮かべたまま言った。

 

 「少しでも動けば、この娘を八つ裂きにするぞ?」

 

 「ッ!?」

 

 次の瞬間。

 

 マヒロを拘束している触手が一斉に蠢いた。

 

 ぎりっ――。

 

 締め付ける音が聞こえそうなほど強く力が込められる。

 

 「ぐっ……!」

 

 マヒロの顔が苦痛に歪んだ。

 

 「マヒロ!」

 

 血の気が引く。

 

 脅しではない。

 

 こいつは本気だ。

 

 今の一瞬だけでも分かった。

 

 少しでも刺激すれば、本当に触手を引き裂くつもりだ。

 

 俺は業火剣を構えたまま動けなくなる。

 

 くそ。

 

 どうする。

 

 どうすればいい。

 

 下手に斬ればマヒロが危険だ。

 

 だが何もしなければ状況は悪化する。

 

 考えろ。

 

 何か方法が――。

 

 「ふふふ」

 

 俺の焦りを見透かしたようにスクイッドが笑う。

 

 その表情には絶対的な優越感が浮かんでいた。

 

 完全に主導権を握ったつもりなのだろう。

 

 「さて」

 

 スクイッドは両腕を広げる。

 

 まるで舞台の幕開けを告げる役者のように。

 

 背後では二体のクラーケンが低く唸り声を上げていた。

 

 「記念すべき【魔海の大行進(マリンズ・パレード)】の開幕だ」

 

 その目が俺達を順番に見回す。

 

 獲物を吟味する肉食獣のように。

 

 「栄えある犠牲者第一号は――」

 

 スクイッドの口元が大きく吊り上がった。

 

 「誰にしてやろうかな?」

 

 その邪悪な笑みに、背筋を冷たい汗が伝った。

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