「グリムフィッシャー? それがお前らの親玉か?」
「ああ、その通りだ」
スクイッドは誇らしげに胸を張った。
「我らが王、グリムフィッシャー様は十死怪にまで登り詰めた偉大なるお方。あの方が再び敗北することなどあり得ん」
「ッ!? 十死怪だと!?」
思わず声が裏返る。
十死怪。
その名を知らない者はほとんどいない。
魔王軍最高戦力。
魔王に認められた十体の怪物達。
以前遭遇したエイシャやダークボルトもその一角だった。
つまり――。
今回の事件の首謀者は、あのクラスの化け物だということになる。
「ふふふ。どうやら恐れをなしたようだな」
スクイッドが愉快そうに笑う。
「無理もない。十死怪とは魔物達の頂点に立つ存在。実力だけでなく、数々の功績を積み重ね、魔王様に認められた者だけが辿り着ける地位なのだから」
「……」
どうやら俺が驚いた反応を恐怖だと勘違いしているらしい。
もちろん警戒はしている。
だが、だからといって絶望しているわけじゃない。
確かに十死怪は強い。
しかし、人類側にも対抗できる強者はいる。
勇者はかつて十死怪達と渡り合っていた。
オーヴェン先生や学園長だって、そう簡単に負けるような相手ではないはずだ。
問題は別にあった。
俺の頭から離れないのは、先程の発言だ。
――地上を制する術。
その言葉が妙に引っ掛かる。
単純に力押しで侵攻するだけなら、「最強の力」や「無敵の魔法」とでも言えばいい。
だがスクイッドは違った。
わざわざ『地上を制する術』と言ったのだ。
まるで勝つための手段が別に存在するかのように。
地上戦に特化した秘策か。
特殊な魔道具か。
あるいは結界を破った時のような未知の術式か。
嫌な予感しかしない。
「ぐぬぬぬぬ……!」
「ッ!」
その時だった。
苦しそうな声が耳に飛び込んでくる。
マヒロだ。
拘束されたまま必死に触手を引き剥がそうとしている。
しまった。
考え事に意識を奪われていた。
今は推理なんてしている場合じゃない。
優先すべきは彼女の救出だ。
「ごめん、マヒロ! 今助ける!」
俺は即座に業火剣《ヘルファード》を発動する。
狙うのは触手。
一瞬で斬り落とせば――。
「おっと」
だが。
スクイッドの声が俺の動きを止めた。
「妙な真似はしない方がいい」
「……何?」
嫌な予感が走る。
スクイッドは薄気味悪い笑みを浮かべたまま言った。
「少しでも動けば、この娘を八つ裂きにするぞ?」
「ッ!?」
次の瞬間。
マヒロを拘束している触手が一斉に蠢いた。
ぎりっ――。
締め付ける音が聞こえそうなほど強く力が込められる。
「ぐっ……!」
マヒロの顔が苦痛に歪んだ。
「マヒロ!」
血の気が引く。
脅しではない。
こいつは本気だ。
今の一瞬だけでも分かった。
少しでも刺激すれば、本当に触手を引き裂くつもりだ。
俺は業火剣を構えたまま動けなくなる。
くそ。
どうする。
どうすればいい。
下手に斬ればマヒロが危険だ。
だが何もしなければ状況は悪化する。
考えろ。
何か方法が――。
「ふふふ」
俺の焦りを見透かしたようにスクイッドが笑う。
その表情には絶対的な優越感が浮かんでいた。
完全に主導権を握ったつもりなのだろう。
「さて」
スクイッドは両腕を広げる。
まるで舞台の幕開けを告げる役者のように。
背後では二体のクラーケンが低く唸り声を上げていた。
「記念すべき【
その目が俺達を順番に見回す。
獲物を吟味する肉食獣のように。
「栄えある犠牲者第一号は――」
スクイッドの口元が大きく吊り上がった。
「誰にしてやろうかな?」
その邪悪な笑みに、背筋を冷たい汗が伝った。