「ッ!? 本当か?」
思わず聞き返していた。
ミオは何も言わず、小さく頷く。
その表情は真剣そのものだった。
冗談を言っているようには見えない。
だが、この状況だ。
本当に打開策なんてあるのか?
「ただし……」
ミオはちらりとスクイッドを見る。
「奴に気付かれたら終わり。マヒロが危ないかもしれない」
「……」
思わず息を呑む。
確かにそうだ。
今はスクイッドが完全に主導権を握っている。
少しでも怪しい動きを見せれば、マヒロがどうなるか分からない。
「だからお願い」
ミオは小声で続けた。
「サダメがあいつの気を引いて」
「気を引く?」
「うん。少しの間でいいから」
「……分かった」
俺は頷く。
他に方法はない。
それに、ミオは無責任なことを言う奴じゃない。
何か勝算があるのだろう。
なら信じるしかない。
「任せろ」
ミオは小さく頷いた。
それを確認し、俺は再びスクイッドへ視線を向ける。
さて、どうやって時間を稼ぐか。
動けない以上、会話で引き付けるしかない。
幸い、こいつはかなりのおしゃべりだ。
さっきから聞いてもいないことまで勝手に話している。
上手く乗せれば、まだ情報を引き出せるかもしれない。
それに――。
俺自身、気になることがあった。
「なあ」
「ん?」
スクイッドがこちらを見る。
「聞きたいことがあるんだけど」
「ほう?」
スクイッドの口元が吊り上がる。
「この状況で私に質問とは。なかなか肝が据わっているではないか」
優越感に満ちた声だった。
完全に勝者の余裕である。
「まあいい」
スクイッドは肩をすくめる。
「冥土の土産だ。一つくらい答えてやろう」
「そうか。ありがとう」
「ははははっ!」
スクイッドは腹を抱えて笑った。
「面白い奴だな。これから仲間を殺そうとしている相手に礼を言うとは」
「……」
思った通りだ。
こいつは気分が良くなれば勝手に喋る。
なら利用させてもらう。
俺は平静を装いながら口を開いた。
「あんたらのボス」
「グリムフィッシャー様か?」
「ああ。そのグリムフィッシャーって奴」
俺は続ける。
「十死怪なんだよな?」
「当然だ」
即答だった。
まるで自分が褒められたかのような反応だ。
「ということは、エイシャやダークボルトと同格ってことか?」
「ほう」
スクイッドの目が細くなる。
「貴様、その二人を知っているのか」
「まあな」
「なるほど」
スクイッドは頷いた。
「実際に十死怪同士の戦いを見たことはない」
そう前置きしてから、不敵な笑みを浮かべる。
「だが実力だけなら同等だろう」
そして。
「いや――今ならそれ以上かもしれんな」
「……今なら?」
俺は眉をひそめた。
妙な言い方だ。
まるで昔はそうではなかったような。
いや、それ以上に引っ掛かる。
十死怪の話になるたびに、こいつはどこか含みのある言い方をしている。
何かある。
そう確信した。
「ふふふ」
スクイッドは得意げに笑う。
「当然だ」
その声には絶対的な確信があった。
「あのお方は十年前より遥かに強くなられた」
十年前。
その言葉に違和感を覚える。
だが、それを考える暇もなかった。
次に続いた言葉が衝撃的だったからだ。
「今のグリムフィッシャー様なら勇者ですら殺せる」
「ッ!?」
思わず目を見開く。
勇者を?
あの勇者を?
エイシャも。
ダークボルトも。
十死怪達ですら打ち破れなかった最強の存在を?
「本気で言ってるのか……?」
「本気も何も事実だ!」
スクイッドは叫ぶ。
その瞳は狂信者のように輝いていた。
「グリムフィッシャー様こそ真の強者!」
両腕を広げる。
まるで神の偉業を語る信徒のように。
「十死怪に相応しいお方!」
声がどんどん大きくなる。
「いや、生物界の頂点に立つべきお方だ!」
完全に周囲が見えていない。
自らの王を称えることに酔っている。
「魔海の大行進は始まりに過ぎん!」
スクイッドは天を仰ぐ。
海風がその外套を大きくはためかせた。
「これは偉大なる王の力を世界へ知らしめるための序章!」
熱狂したように叫ぶ。
「見ているがいい、人類よ!」
その声が砂浜に響き渡る。
「これこそが最強の生物――!」
スクイッドは両腕を天へ突き上げた。
「グリムフィッシャー様の力なのだぁぁぁぁぁぁっ!!」
狂信的な叫びが海辺に木霊する。