転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー39

 「ッ!? 本当か?」

 

 思わず聞き返していた。

 

 ミオは何も言わず、小さく頷く。

 

 その表情は真剣そのものだった。

 

 冗談を言っているようには見えない。

 

 だが、この状況だ。

 

 本当に打開策なんてあるのか?

 

 「ただし……」

 

 ミオはちらりとスクイッドを見る。

 

 「奴に気付かれたら終わり。マヒロが危ないかもしれない」

 

 「……」

 

 思わず息を呑む。

 

 確かにそうだ。

 

 今はスクイッドが完全に主導権を握っている。

 

 少しでも怪しい動きを見せれば、マヒロがどうなるか分からない。

 

 「だからお願い」

 

 ミオは小声で続けた。

 

 「サダメがあいつの気を引いて」

 

 「気を引く?」

 

 「うん。少しの間でいいから」

 

 「……分かった」

 

 俺は頷く。

 

 他に方法はない。

 

 それに、ミオは無責任なことを言う奴じゃない。

 

 何か勝算があるのだろう。

 

 なら信じるしかない。

 

 「任せろ」

 

 ミオは小さく頷いた。

 

 それを確認し、俺は再びスクイッドへ視線を向ける。

 

 さて、どうやって時間を稼ぐか。

 

 動けない以上、会話で引き付けるしかない。

 

 幸い、こいつはかなりのおしゃべりだ。

 

 さっきから聞いてもいないことまで勝手に話している。

 

 上手く乗せれば、まだ情報を引き出せるかもしれない。

 

 それに――。

 

 俺自身、気になることがあった。

 

 「なあ」

 

 「ん?」

 

 スクイッドがこちらを見る。

 

 「聞きたいことがあるんだけど」

 

 「ほう?」

 

 スクイッドの口元が吊り上がる。

 

 「この状況で私に質問とは。なかなか肝が据わっているではないか」

 

 優越感に満ちた声だった。

 

 完全に勝者の余裕である。

 

 「まあいい」

 

 スクイッドは肩をすくめる。

 

 「冥土の土産だ。一つくらい答えてやろう」

 

 「そうか。ありがとう」

 

 「ははははっ!」

 

 スクイッドは腹を抱えて笑った。

 

 「面白い奴だな。これから仲間を殺そうとしている相手に礼を言うとは」

 

 「……」

 

 思った通りだ。

 

 こいつは気分が良くなれば勝手に喋る。

 

 なら利用させてもらう。

 

 俺は平静を装いながら口を開いた。

 

 「あんたらのボス」

 

 「グリムフィッシャー様か?」

 

 「ああ。そのグリムフィッシャーって奴」

 

 俺は続ける。

 

 「十死怪なんだよな?」

 

 「当然だ」

 

 即答だった。

 

 まるで自分が褒められたかのような反応だ。

 

 「ということは、エイシャやダークボルトと同格ってことか?」

 

 「ほう」

 

 スクイッドの目が細くなる。

 

 「貴様、その二人を知っているのか」

 

 「まあな」

 

 「なるほど」

 

 スクイッドは頷いた。

 

 「実際に十死怪同士の戦いを見たことはない」

 

 そう前置きしてから、不敵な笑みを浮かべる。

 

 「だが実力だけなら同等だろう」

 

 そして。

 

 「いや――今ならそれ以上かもしれんな」

 

 「……今なら?」

 

 俺は眉をひそめた。

 

 妙な言い方だ。

 

 まるで昔はそうではなかったような。

 

 いや、それ以上に引っ掛かる。

 

 十死怪の話になるたびに、こいつはどこか含みのある言い方をしている。

 

 何かある。

 

 そう確信した。

 

 「ふふふ」

 

 スクイッドは得意げに笑う。

 

 「当然だ」

 

 その声には絶対的な確信があった。

 

 「あのお方は十年前より遥かに強くなられた」

 

 十年前。

 

 その言葉に違和感を覚える。

 

 だが、それを考える暇もなかった。

 

 次に続いた言葉が衝撃的だったからだ。

 

 「今のグリムフィッシャー様なら勇者ですら殺せる」

 

 「ッ!?」

 

 思わず目を見開く。

 

 勇者を?

 

 あの勇者を?

 

 エイシャも。

 

 ダークボルトも。

 

 十死怪達ですら打ち破れなかった最強の存在を?

 

 「本気で言ってるのか……?」

 

 「本気も何も事実だ!」

 

 スクイッドは叫ぶ。

 

 その瞳は狂信者のように輝いていた。

 

 「グリムフィッシャー様こそ真の強者!」

 

 両腕を広げる。

 

 まるで神の偉業を語る信徒のように。

 

 「十死怪に相応しいお方!」

 

 声がどんどん大きくなる。

 

 「いや、生物界の頂点に立つべきお方だ!」

 

 完全に周囲が見えていない。

 

 自らの王を称えることに酔っている。

 

 「魔海の大行進は始まりに過ぎん!」

 

 スクイッドは天を仰ぐ。

 

 海風がその外套を大きくはためかせた。

 

 「これは偉大なる王の力を世界へ知らしめるための序章!」

 

 熱狂したように叫ぶ。

 

 「見ているがいい、人類よ!」

 

 その声が砂浜に響き渡る。

 

 「これこそが最強の生物――!」

 

 スクイッドは両腕を天へ突き上げた。

 

 「グリムフィッシャー様の力なのだぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 狂信的な叫びが海辺に木霊する。

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