「がっ!?」
業火剣で受け止めたはずなのに、その衝撃は剣を通して全身へと突き抜けた。
あり得ないほどの膂力だ。
業火剣には大きなヒビが入り、踏ん張ろうとした足もまるで役に立たない。そのまま自分の身体は砲弾のように吹き飛ばされ、海の方へと弾き飛ばされてしまった。
なんて馬鹿げた力だ。
しかも奴は魚人族。本来の力を発揮しにくい地上でこれなのだ。もし海中でまともに戦っていたら、一体どうなっていたことか。
「ぐっ……!?」
五十メートル。
百メートル。
百五十メートル。
凄まじい勢いのまま、どんどん砂浜から遠ざかっていく。
まずい。
吹き飛ばされた際の衝撃で業火剣は完全に砕け散り、ミオ達とも大きく距離が開いてしまった。
この状況で襲われたら、もう皆を助けに行くことは――
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ッ!?」
思考を遮るように咆哮が響いた。
視線を向けると、グリムフィッシャーがこちらへ向かって一直線に飛び込んで来ている。
どうやら最初から自分を仕留めるつもりらしい。
だが、それは好都合――などと言っていられる状況ではなかった。
奴にとって海は絶対的な主戦場。
このまま海上で戦闘になれば、こちらに勝ち目などほとんど無い。
「ふははははは! 今度こそ貴様の腹にどデカい風穴を開けてやろう!」
「ッ!? 速い!?」
グリムフィッシャーは常識外れの跳躍力で海面を蹴り、みるみるうちに距離を詰めてくる。
自分は未だ吹き飛ばされている最中だというのに、奴はすでに次の攻撃に移っていた。
腕力だけではない。
脚力まで化け物級だ。
コールスタッシュ先生ですら比較にならない。
「……くそっ!」
早く手を打たなければならない。
あいつは冗談めかして言っていたが、本当にあの拳をまともに受ければ腹に風穴が開く。
それだけは絶対に避けなければならない。
だが、問題はそれだけではなかった。
今の自分は海の上にいる。
この勢いのまま着水すれば、そのまま海中深くまで沈められるだろう。
そして海中では声を発することができない。
つまり、詠唱魔法が使えなくなる。
そんな状況でグリムフィッシャーを相手にするなど、自殺行為も同然だ。
着水する前に、何かしらの対策を講じなければ。
「聖なる守護神よ。絶対の防御を誇る御身の防壁で親愛なる者達を守りたまえ――【絶防結界《アブソディ・セマ》】!」
自分は咄嗟に結界魔法を発動した。
結界術はまだ習得したばかりで決して得意ではない。
大規模な結界を張ることなど到底不可能だ。
だが、自分一人を包み込む程度の大きさならなんとかなる。
詠唱を終えると同時に、淡い光の膜が自分の身体を球状に包み込んだ。
そして次の瞬間――
自分は砂浜から三百メートル以上離れた海面へと叩き付けられた。
「ぐぅっ!?」
凄まじい衝撃が背中を襲う。
だが、予想していたほどではない。
結界が衝撃の大半を受け止めてくれたのだろう。
背中に鈍い痛みは残ったものの、致命的なダメージには至らなかった。
もし結界を張っていなければどうなっていたか。
考えるだけで背筋が寒くなる。
少なくとも、背中を痛める程度で済んではいなかったはずだ。