「……はあ……はあ……」
震える手でマヒロの治療を続けながら、私は必死に呼吸を整えようとしていた。
だけど、全然落ち着かない。
胸の奥が締め付けられるように苦しくて、頭の中は不安でいっぱいだった。
サダメが――。
サダメが今、危険な目に遭っている。
私がマヒロを治療していた時だった。
仲間を殺したあのサメ頭の魚人族が、私達へ襲い掛かってきた。
本来なら私達が死んでいた。
あの瞬間、サダメが身を挺して庇ってくれなければ。
だけど、その代償はあまりにも大きかった。
サダメは魚人族の攻撃を受け、海の方へ吹き飛ばされた。
それだけでは終わらない。
魚人族は追い討ちを掛けるように海へ飛び込み、そのままサダメを追い掛けていった。
まるで最初から狙いを定めていたかのように。
どうしよう。
早く助けに行かなきゃいけない。
そう思うのに、身体が動かなかった。
海の中では魚人族が圧倒的に有利だ。
しかもサダメの主力は炎魔法。
海中では本来の力を発揮できるはずがない。
このままでは本当に――。
「……っ」
嫌な想像が脳裏をよぎる。
そして同時に、あの一瞬で理解してしまった。
あいつは私達でどうにかできる相手じゃない。
パワーも。
スピードも。
今まで出会ってきた魔物とは明らかに格が違った。
もしかして、あれが――。
『ミオー! マヒロー! 大丈夫ー!?』
「ッ!? フィーちゃん!」
不意に聞こえた声に顔を上げる。
振り返ると、フィーちゃん達がこちらへ向かって駆けてきていた。
その後ろには見覚えのない冒険者達の姿もある。
きっとフィーちゃん達が周囲に助けを求めてくれたのだろう。
「はあ……はあ……。わ、私は大丈夫。マヒロも怪我はしてるけど、もう少しで治療が終わるから……」
『そう。よかったぁ……』
フィーちゃんは安心したように胸を撫で下ろした。
だけど、私の心は少しも軽くならない。
むしろ焦りは強くなる一方だった。
「……サダメ君は一緒じゃないのかい?」
ソンジさんの問い掛けに、私の肩がぴくりと震える。
やっぱり聞かれる。
当然だ。
この場にいるはずのサダメの姿が見当たらないのだから。
私は唇を噛み締めながら事情を説明した。
「……サダメは、私達を助けるために魔物と戦ってたの。でも相手が想像以上に強くて……」
言葉が詰まる。
それでも無理やり続けた。
「今、海でその魔物と戦ってるかもしれないの……!」
「ッ!? なんだって!?」
ソンジさん達の表情が一変する。
驚愕。
困惑。
そして焦り。
その反応は当然だった。
私自身、気が気ではないのだから。
『う、海でって……相手は魚人族なんだよね?』
「……うん」
私は小さく頷いた。
『それって……』
「しかも、すごく強かった」
フィーちゃんの言葉を遮るように答える。
震える声だった。
「サダメが居なかったら、私達の方が先に殺されてた」
『……ミオ』
その瞬間だった。
張り詰めていた感情が限界を迎えたのは。
ぽたり、と。
一粒の涙が砂浜へ落ちる。
必死に我慢していたのに止められなかった。
怖い。
不安だ。
サダメが死んでしまうかもしれない。
そんな考えが頭から離れてくれない。
だからこそ、もう意地を張っている場合じゃなかった。
私一人ではどうにもできない。
私達だけでも無理だ。
なら――。
「お願いします!」
私は深く頭を下げた。
声が裏返るほど必死に叫ぶ。
「誰か……誰かサダメを助けに行ってくれませんか!?」
今はただ、その願いが届くことを祈るしかなかった。