転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー46

 「……はあ……はあ……」

 

 震える手でマヒロの治療を続けながら、私は必死に呼吸を整えようとしていた。

 

 だけど、全然落ち着かない。

 

 胸の奥が締め付けられるように苦しくて、頭の中は不安でいっぱいだった。

 

 サダメが――。

 

 サダメが今、危険な目に遭っている。

 

 私がマヒロを治療していた時だった。

 

 仲間を殺したあのサメ頭の魚人族が、私達へ襲い掛かってきた。

 

 本来なら私達が死んでいた。

 

 あの瞬間、サダメが身を挺して庇ってくれなければ。

 

 だけど、その代償はあまりにも大きかった。

 

 サダメは魚人族の攻撃を受け、海の方へ吹き飛ばされた。

 

 それだけでは終わらない。

 

 魚人族は追い討ちを掛けるように海へ飛び込み、そのままサダメを追い掛けていった。

 

 まるで最初から狙いを定めていたかのように。

 

 どうしよう。

 

 早く助けに行かなきゃいけない。

 

 そう思うのに、身体が動かなかった。

 

 海の中では魚人族が圧倒的に有利だ。

 

 しかもサダメの主力は炎魔法。

 

 海中では本来の力を発揮できるはずがない。

 

 このままでは本当に――。

 

 「……っ」

 

 嫌な想像が脳裏をよぎる。

 

 そして同時に、あの一瞬で理解してしまった。

 

 あいつは私達でどうにかできる相手じゃない。

 

 パワーも。

 

 スピードも。

 

 今まで出会ってきた魔物とは明らかに格が違った。

 

 もしかして、あれが――。

 

 『ミオー! マヒロー! 大丈夫ー!?』

 

 「ッ!? フィーちゃん!」

 

 不意に聞こえた声に顔を上げる。

 

 振り返ると、フィーちゃん達がこちらへ向かって駆けてきていた。

 

 その後ろには見覚えのない冒険者達の姿もある。

 

 きっとフィーちゃん達が周囲に助けを求めてくれたのだろう。

 

 「はあ……はあ……。わ、私は大丈夫。マヒロも怪我はしてるけど、もう少しで治療が終わるから……」

 

 『そう。よかったぁ……』

 

 フィーちゃんは安心したように胸を撫で下ろした。

 

 だけど、私の心は少しも軽くならない。

 

 むしろ焦りは強くなる一方だった。

 

 「……サダメ君は一緒じゃないのかい?」

 

 ソンジさんの問い掛けに、私の肩がぴくりと震える。

 

 やっぱり聞かれる。

 

 当然だ。

 

 この場にいるはずのサダメの姿が見当たらないのだから。

 

 私は唇を噛み締めながら事情を説明した。

 

 「……サダメは、私達を助けるために魔物と戦ってたの。でも相手が想像以上に強くて……」

 

 言葉が詰まる。

 

 それでも無理やり続けた。

 

 「今、海でその魔物と戦ってるかもしれないの……!」

 

 「ッ!? なんだって!?」

 

 ソンジさん達の表情が一変する。

 

 驚愕。

 

 困惑。

 

 そして焦り。

 

 その反応は当然だった。

 

 私自身、気が気ではないのだから。

 

 『う、海でって……相手は魚人族なんだよね?』

 

 「……うん」

 

 私は小さく頷いた。

 

 『それって……』

 

 「しかも、すごく強かった」

 

 フィーちゃんの言葉を遮るように答える。

 

 震える声だった。

 

 「サダメが居なかったら、私達の方が先に殺されてた」

 

 『……ミオ』

 

 その瞬間だった。

 

 張り詰めていた感情が限界を迎えたのは。

 

 ぽたり、と。

 

 一粒の涙が砂浜へ落ちる。

 

 必死に我慢していたのに止められなかった。

 

 怖い。

 

 不安だ。

 

 サダメが死んでしまうかもしれない。

 

 そんな考えが頭から離れてくれない。

 

 だからこそ、もう意地を張っている場合じゃなかった。

 

 私一人ではどうにもできない。

 

 私達だけでも無理だ。

 

 なら――。

 

 「お願いします!」

 

 私は深く頭を下げた。

 

 声が裏返るほど必死に叫ぶ。

 

 「誰か……誰かサダメを助けに行ってくれませんか!?」

 

 今はただ、その願いが届くことを祈るしかなかった。

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