「ッ!? 救出してほしい、だって?」
「はい! お願いします! 誰か、サダメを助けてください!」
私は周囲の大人達へ向かって頭を下げた。
本当は自分で助けに行きたい。
今すぐ海へ飛び込みたい。
だけど、それが出来ないことくらい分かっている。
今の私では足手まといになるだけだ。
だから誰かに頼るしかない。
悔しくても、情けなくても、それしかサダメを助ける方法がなかった。
「……」
しかし、私の懇願に返ってきたのは沈黙だった。
誰も口を開かない。
重苦しい空気だけが辺りを支配する。
嫌な予感がした。
そして――。
「……駄目だ。それは出来ない」
「……え?」
ようやく口を開いた男性の言葉に、私は思わず耳を疑った。
助けられない?
どうして?
今ここにいるのは腕の立つ冒険者達のはずだ。
なのに、どうして誰も動いてくれないの?
「ど、どうしてですか……?」
焦りを抑えきれず問い返す。
すると男性は険しい表情のまま周囲を指差した。
「周りを見てみろ。海から魔物共が次々と上陸しようとしている」
視線を向けると、確かに海岸線では魔物達との戦闘が続いていた。
倒しても倒しても、新たな魔物が現れる。
「俺達はあれを止めるために集められたんだ。優先すべきは街や住民を守ることだ」
別の冒険者も続ける。
「本来なら騎士団が対応する規模の襲撃だ。だが到着までには時間が掛かる。その間を俺達だけで凌がなければならない」
「ただでさえ人手が足りていない。正直、一人を救出するために戦力を割く余裕なんてないんだ」
さらに別の冒険者が苦々しく言った。
「それに、海の中で魚人族と戦うなんて無謀にも程がある。奴らは海でこそ本領を発揮する種族だ」
その言葉に周囲の冒険者達も無言で頷く。
「奴らの縄張りに飛び込むのは自殺行為だ。悪いが……その仲間のことは諦めてくれ」
「そ、そんな……」
力が抜けそうになる。
言葉が出てこない。
だけど反論も出来なかった。
この人達の言い分は間違っていないからだ。
今、この場で最優先されるべきなのは魔物による被害を抑えること。
ここに集まっている冒険者は僅か数人。
その少人数で何百もの魔物を食い止めようとしている。
そんな状況で一人の救出に人員を割けないのは当然だ。
それに――。
仮に誰かが助けに行ったとしても、待っているのは魚人族の支配する海の中。
授業で習った知識が頭をよぎる。
魚人族は海中において身体能力が飛躍的に向上する。
陸上とは比較にならないほど強くなる種族だ。
まして相手は、あの怪物。
サダメを一撃で海まで吹き飛ばした化け物。
そんな相手と海中で戦うなんて――。
「……」
嫌な想像が頭を過る。
暗い海。
血の色。
沈んでいくサダメの姿。
駄目。
考えちゃ駄目なのに。
どうしても最悪の未来ばかりが浮かんでしまう。
もしこのまま誰も助けに行かなかったら。
もしもう手遅れだったら。
そう考えた瞬間、胸が締め付けられるように苦しくなった。
「……安心するでござるよ、ミオ」
「ッ!?」
その時だった。
聞き慣れた声が私の耳に届く。
振り返ると、治療を終えたばかりのマヒロがゆっくりと立ち上がっていた。
傷だらけの身体。
決して万全ではないはずなのに、その瞳には揺るぎない光が宿っている。
「マヒロ……?」
私が呆然と名前を呼ぶと、マヒロは腰の刀へ手を添えながら真っ直ぐ海を見据えた。
そして。
迷いなど一切感じさせない声で言い放つ。
「サダメは――」
一瞬の静寂。
その場にいた全員の視線が彼女へ集まる。
「拙者が助ける!」