「サダメ……かたじけぬ!」
自分の意図を察したのだろう。
マヒロはふらつく身体を無理やり立たせ、そのままグリムフィッシャーへ向かって駆け出した。
それでいい。
お前は斬ることだけ考えろ。
あの怪物を倒せるのは、お前しかいない。
「はっ! 馬鹿めがぁ!!」
グリムフィッシャーが大口を開いて嗤う。
「接近される前に叩き潰してくれるわぁ!!」
巨大なクラーケンの触手が高々と持ち上がる。
そして。
「うりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
轟音と共に振り下ろされた。
まともに食らえば終わりだ。
確かに水龍なら切断できるだろう。
だが意味がない。
奴は変体魔法でいくらでも再生できる。
毒に侵されているマヒロに余計な体力を使わせるわけにはいかなかった。
だから。
「はあっ!!」
自分は地面を蹴った。
脱兎跳躍。
一気にマヒロの頭上へ飛び込む。
空中で業火剣を横に構え、防御姿勢を取った。
直後――。
ドゴォォォォォン!!
凄まじい衝撃。
触手が業火剣へ叩きつけられる。
「ぬうっ!?」
グリムフィッシャーが目を見開く。
だが押し負ける。
当然だ。
空中では踏ん張りが効かない。
このまま押し潰されればマヒロまで巻き込まれる。
ならば。
少しでも軌道を逸らす。
それだけでいい。
「うおおおおおおっ!!」
自分は両腕へ部分魔力強化《パージング》を発動。
筋肉が膨張する感覚と共に全力で押し返した。
そして。
――パキン。
嫌な音が響く。
「なっ!?」
業火剣が耐え切れなかった。
刀身に亀裂が走り、そのまま真っ二つに砕け散る。
だが。
それで十分だった。
砕ける瞬間に生じた反発で、巨大触手がわずかに上へ逸れる。
本当にわずか。
ほんの数十センチ。
だが致命的な差だ。
触手はマヒロを捉えられない。
「くそがぁぁぁ!!」
グリムフィッシャーが怒号を上げる。
「だがこの程度で勝った気になるなよぉ!?」
その瞬間だった。
背中のクラゲ触手が一斉に動く。
「ッ!?」
自分の背筋が凍る。
数が多い。
しかも全て毒付きだ。
マヒロにもう一撃でも入れば終わる。
だが業火剣は砕けた。
防ぐ手段がない。
どうする。
どうすれば――。
「……そうだ」
ふと脳裏に一つの光景が浮かぶ。
勇者だ。
かつて勇者は残った魔法の火種を利用し、新たな魔法へ繋げていた。
今の自分と同じように。
砕けた業火剣の破片が宙を舞っている。
業火剣は魔法で生み出した剣。
だから消滅する前ならまだ魔力が残っているはず。
ならば――。
これを別の魔法として使えないか?
剣ではなく。
弾丸として。
頭の中で魔法の形を組み替える。
散らばった破片。
火の粉。
無数の火球。
そして敵を撃ち抜く散弾。
イメージが繋がる。
「――散らばりし火の粉よ」
魔力が奔る。
「火球となりて眼前にありし敵を撃ち落とせ!」
砕けた刀身が赤く輝き始める。
「【火球《フレール》・散弾《ショット》】!!」
次の瞬間。
無数の火球が四方八方へ炸裂した。
ドドドドドドドドドッ!!
散弾のような火球群がクラゲ触手へ殺到する。
「ッ!?」
グリムフィッシャーの表情が変わった。
火球は次々と命中。
小規模な爆発を連続して起こす。
クラゲ触手はクラーケン触手ほど頑丈ではなかった。
一発一発の威力は低い。
だが数が違う。
爆発。
爆発。
爆発。
次々と触手が吹き飛ばされていく。
「ぐっ!?」
グリムフィッシャーが思わず後退した。
その隙を。
自分は見逃さない。
「よしっ!」
拳を握る。
窮地は脱した。
そして何より――。
今の一撃で、自分の中に新たな魔法が確かに生まれていた。