「あそこだ! 容赦は要らん!! 殺せぇぇぇ!!!」
「向こうから囲め! あのガキだけは絶対に逃がすな!!」
「はあ……はあ……」
魔物の群れが続々と集まり、自分は必死に逃げ続けていた。だが、自分は囮役だ。ヘイトがこちらに集中している今、奴らの視線を逸らさせるわけにはいかない。だから脱兎跳躍《ラジャスト》は使わず、見失われない距離を保って走る。――だが。
「ッ!?」
先回りされるのは当然だった。魔物の脚力を舐めていたわけではないが、思った以上に速い。
「……やるか」
前方には魔物が三、四体。背後には数える余裕もないほどの大群。周囲は建物が密集し、視界の先には横道が見えるが、自分がそこへ到達するより先に魔物が回り込むだろう。――逃げ道は、実質ない。
前の連中へ魔法を撃てるよう身構える。しかし、一撃であの数を仕留め切れるか。道幅は狭いとはいえ、失敗すれば状況は悪化する。冷静に考えろ。
「……」
この状況を打破する方法。一か八かだが、うまくいけば後ろの連中もまとめて一網打尽にできる。
「ふう……」
前方との距離は約五十メートル。落ち着け。さっきのようなミスは二度としない。そのために一度、深く息を吸う。
「はっはっは、観念しろクソガキ!!」
「……」
距離三十メートル。
もう少し。
もう少し引き付けろ。
――二十。
「死ねや!!!」
――十。
「はあっ!」
残り十メートルを切った瞬間、脱兎跳躍《ラジャスト》を発動。全力で前方の建物へ跳躍する。
「なっ?!」
正面から迫っていた魔物たちは、攻撃する前に思考と足を止めた。無理もない。自分自身、ついさっき思いついた策なのだから。
建物を利用した特大の壁ジャンプ。前世のゲーム知識が、まさかここで生きるとは思わなかった。いや、どちらかといえばパルクールだ。
前世の運動音痴な自分なら絶対にできなかっただろう。だが今の自分ならできる――そう信じて踏み切った。まさか本当に成功するとは。失敗すれば壁に顔面をぶつけて終わっていたかもしれない。それでも、脱兎跳躍を使いこなせるようになった成果だ。
「くそっ!?」
壁ジャンプで前方の魔物を鮮やかに掻い潜る。――だが、これで終わりではない。
「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん」
「っ?!」
「【火球】」
空中で体を捻り、背後へ火球を放つ。威力はやや強め、七割弱に調整。前方から来ていた魔物と、後方から追ってきた魔物がちょうど合流する位置。――群れの中心だ。これならいける。
「うわあぁっ!!?!」
巨大化した火球が魔物たちの中央へ着弾。呻き声が重なり、辺りは一瞬で地獄絵図と化した。
「よしっ!」
自分としては上出来だ。全員倒せていれば理想的だが――
「き、貴様ぁっ!?」
「ちっ……全滅は、さすがに無理か」
火煙が晴れると、数体の魔物の死体と、なおも殺意に満ちた生存者たちが姿を現す。
「我らの同胞をよくもここまでやってくれたな。ガキ、タダで済むと思うなよ」
「……」
怒りを叩きつけてくる魔物を見て、自分の内側にも同じ熱が湧き上がる。
「……ふざけるなよ」
「あ゛あ゛?!」
「お前らだって散々人の命を奪ってきたんだろ。今だって俺たちを殺そうとしている」
「だからどうした? テメーらみてぇな下等種族の命なんか知ったことか!!」
「はあ゛ぁ?!」
怒りがぶつかり合い、口論は一気に熱を帯びる。自分の沸点は、すでに限界寸前まで達していた。
――こいつらは人の命を奪い続けてきた。
――なら、それ相応の報いを受けるべきだ。
それなのに、こいつらはのうのうと生きている。それが、どうしようもなく腹立たしい。
「お前らは、これからも人の命を奪い続けるのか?」
「はっはっはっ、当然だろ!」
「……そうか。なら――」
これ以上、好きにはさせない。
人の法では裁けない。
なら、自分がここで裁く。
「俺がここで殺してやる。かかってこい!!」
そう言い放ち、自分は魔物へ剣を突きつけた。