「ぐぬぬぬぬっ!! 小癪な真似を!!」
グリムフィッシャーが歯ぎしりを鳴らす。
クラゲの触手を撃ち落とされ、奴の表情からは余裕が消えつつあった。
よし。
このままマヒロが接近できれば――。
そう思った、その時だった。
「……ならば!」
グリムフィッシャーの口元が歪む。
「これでどうだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ッ!?」
次の瞬間。
奴の巨体が大きく回転した。
右回り。
その勢いに乗せて振り抜かれたのは、巨大な尾だった。
ブォンッ――!!
空気を切り裂く轟音。
視界を埋め尽くすほど巨大な尾びれが横薙ぎに迫ってくる。
「なっ……!?」
思わず目を見開く。
クラーケンの触手よりも太い。
一回りどころではない。
二回りは巨大だ。
形状からして鮫の尾びれ。
いつの間に生やしたんだ。
いや――。
恐らく最初からだ。
クラーケンの触手やクラゲの触手を生成した時に同時に用意していたのだろう。
変体魔法。
あの能力の応用か。
「貴様ら二人まとめて吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
轟音と共に尾びれが迫る。
まずい。
業火剣はない。
火球・散弾ももう使えない。
今から新たな防御手段を用意する時間もない。
まともに受ければ終わる。
そんな考えが脳裏をよぎった時だった。
「サダメ!」
「ッ!?」
マヒロの声。
彼女は振り返らない。
ただ前を向いたまま叫んだ。
「信じているでござるよ!!」
「――ッ!!」
その一言だけだった。
たったそれだけ。
だが、それで十分だった。
不安が消える。
迷いも消える。
そうだ。
マヒロは自分を信じている。
だから振り返らない。
だから立ち止まらない。
ならば自分も応えなければならない。
出来るかどうかじゃない。
やるんだ。
ここで止める。
絶対に。
「爆ぜる焔よ――!」
自分は尾びれへ向かって駆け出した。
魔力を練り上げる。
「火の球として聚合し!」
右手へ炎が集まる。
「眼前に映りし標的へ猛る一投を撃ちかけむ!」
火球が完成する。
「【火球《フレール》】ッ!!」
炎弾を放つ。
狙いは破壊ではない。
威力を削ること。
ほんの少しでも勢いを落とせればそれでいい。
ドォォォン!!
火球が尾びれに炸裂する。
だが止まらない。
やはり威力が足りない。
それでも構わない。
ここから先は――。
力尽くだ。
「はあああああああああああああああああああっ!!!!」
脱兎跳躍。
限界まで加速する。
さらに両腕。
右肩。
両脚。
全てに部分魔力強化《パージング》を発動。
筋肉が悲鳴を上げる。
それでも止めない。
そして。
迫り来る巨大な尾びれへ。
真正面から飛び込んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ドゴォォォォォォォン!!
激突。
衝撃が全身を貫く。
骨が軋む。
筋肉が裂けそうになる。
「ぐっ……! う、ううぅぅっ!!」
押される。
圧倒的な質量。
圧倒的な膂力。
火球で勢いを削ったにもかかわらず、それでもなお怪物じみた威力だった。
「ぬっ!?」
グリムフィッシャーが目を見開く。
「また貴様かぁ!?」
当然だ。
自分だって驚いている。
止められていること自体が奇跡なのだから。
足元が削れる。
身体が後ろへ押される。
少しでも力を抜けば吹き飛ぶ。
そんな極限状態だった。
歯を食いしばる。
強く。
強く。
あまりにも強く噛み締めたせいで、口の中が切れた。
血の味が広がる。
それでも離さない。
絶対に。
絶対にここを通さない。
そして自分は肺の空気を全て吐き出す勢いで叫んだ。
「いっっっっっっっっけえええええええええええええええええええええええ!!!!」
視線を向ける余裕はない。
マヒロがどこまで迫っているのかも分からない。
だが信じている。
彼女なら届く。
彼女なら斬れる。
だから俺は――。
この一撃を受け止め続ける。