「いっっっっっけええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
背後で轟音が響き渡る。それと同時に、サダメの叫び声が聞こえてきた。
「……」
振り返る余裕はない。今は目の前の敵だけに集中せねばならぬ。
だが、状況は理解できた。
サダメが何らかの手段でグリムフィッシャーを足止めしたのだ。
「う゛っ!? くっそがああああ!!」
目の前では、グリムフィッシャーが苦悶の声を上げながら半ば背を向けた状態で身動きが取れなくなっている。
それが何よりの証拠だった。
サダメが命懸けで作った好機。
この時間を無駄にするわけにはいかぬ。
「……スー……」
息を整えようとした、その瞬間。
「う゛っ!?」
心臓が激しく脈打ち、胸の奥に鋭い痛みが走った。
毒の影響か。
それとも出血によるものか。
理由はどうあれ、拙者にも残された時間は多くない。
「……ふう」
静かに息を吐く。
生死の行方は、この一太刀に懸かっている。
外せば終わりだ。
拙者も。
サダメも。
ここで命を落とすことになる。
故に、確実に斬る。
この一撃で奴の命を断つ。
「いざ、参る!!」
「ッ!?」
地を蹴る。
余計な思考は捨てた。
全神経を魔妖へと集中させ、両手で柄を強く握り締める。
全身全霊。
この命すら賭けて、必ず届かせる。
グリムフィッシャーの懐へ飛び込むと同時に、水龍を振り抜いた。
「はああああっ!!!」
狙うは胴。
左脇腹から刃を滑り込ませる。
水龍が纏う水刃は、奴の分厚い筋肉すら紙のように切り裂き、何の抵抗もなく肉を断った。
「あああああああああああああああああ!!!!!!」
刃が深く食い込む。
そのまま、一気に横薙ぎへ振り切った。
「ぬあああああああああああああああっ!!!!?」
グリムフィッシャーが絶叫する。
腕を斬り落とされた時ですら悲鳴一つ上げなかった男が、今や情けなく叫び声を上げていた。
命を奪われる恐怖は、それほどまでに大きいのであろう。
「あああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」
断末魔が響く。
その声と共に、グリムフィッシャーの胴体は上下に断ち切られた。
上半身が宙を舞う。
「なっ!? そんな……馬鹿な……!」
空中へ放り出された奴の顔には、驚愕の色が浮かんでいた。
目は大きく見開かれ、自らが斬られたという事実を受け入れられていない。
死を目前にしてなお、現実を理解できずにいるようだった。
「……これにて、しまいでござる」
静かに告げる。
そして、水の刃を纏った魔妖を納刀した。
「く、っそ……が……」
それが奴の最期の言葉だった。
やがて上半身が地面へと落下し、鈍い音を立てる。
グリムフィッシャーは二度と動かなかった。
「ふう……なんとか、倒したでござるか……」
長かった戦いが終わった。
そう実感した瞬間、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れる。
全身から力が抜けていく。
毒。
出血。
疲労。
今まで無理やり押さえ込んでいた全てが、一気に襲いかかってきた。
視界が揺れる。
足元がおぼつかない。
それでも最後に思ったのは、勝てたという安堵だった。
サダメが繋いでくれた勝機を無駄にせずに済んだ。
皆を守ることができた。
その事実だけを胸に抱きながら――
拙者の意識は、静かに闇の中へ沈んでいった。