「はあ……はあ……はあ……」
とうとうマヒロがグリムフィッシャーを討ち取った。
胴体は真っ二つに断たれ、切り離された上半身が地面を転がる。下半身だけがしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。
自分達を吹き飛ばそうとしていた巨大な尾びれも、力を失ったように地面へと落下する。
それを確認した瞬間、自分も部分魔力強化《パージング》を解除した。
すると、それまで無理やり押さえ込んでいた疲労が一気に襲いかかってくる。
「ぐっ……!」
身体から力が抜け、その場にへたり込んだ。
呼吸は荒れ、肺が焼けるように痛い。
過呼吸気味になりながら肩を上下させる。
全身から冷や汗が噴き出し、寒気が背筋を這い上がった。
まるで真冬の川へ放り込まれたかのようだ。
「はあ……はあ……はあ……ふぅ……」
しばらく呼吸を整える。
完全に回復したわけではない。
それでも、立ち上がる程度の力はどうにか戻ってきた。
まだ終わっていない。
そう自分に言い聞かせながら、ふらつく足で顔を上げる。
視線の先にはマヒロの姿があった。
彼女はグリムフィッシャーの亡骸の傍らで倒れている。
微動だにしない。
まるで力尽きたかのようだった。
「ま、待ってろよ……マヒロ……」
毒。
出血。
どちらも致命傷になり得る。
悠長に休んでいる時間などない。
今すぐ処置しなければ手遅れになる。
「今、行くからな……」
震える脚に力を込める。
一歩。
また一歩。
意識が飛びそうになるのを堪えながら、自分は彼女の元へ向かった。
急げ。
急げ。
間に合わなくなる前に。
――絶対に助けるんだ。
◇ ◇ ◇
「はあ……はあ……よ、よし……」
なんとかマヒロの元へ辿り着いた自分は、その場に膝をついた。
彼女の顔色は悪い。
呼吸も弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。
「マヒロ。今から毒を抜くからな……もう少しだけ頑張れ」
声を掛ける。
すると――
「ん……んん……」
小さな唸り声が返ってきた。
意識が戻ったわけではないだろう。
それでも生きている証拠だった。
少しだけ胸を撫で下ろす。
だが安心している暇はない。
一刻も早く処置を始めなければ。
自分は深く息を吸った。
毒を抜く作業は危険だ。
下手をすれば自分まで毒に侵される可能性がある。
それでも躊躇している場合ではなかった。
治癒魔法が使えれば話は別だろう。
だが今、この場にそれを使える者はいない。
ならば自分がやるしかない。
「……いくぞ」
覚悟を決める。
心臓に近い傷口ほど危険性は高い。
自分は慎重に傷口へ顔を近づけた。
そして処置を始める。
「んっ……!?」
その瞬間、マヒロの身体が僅かに反応した。
思わず手が止まりそうになる。
だが、すぐに首を振った。
今は余計なことを考えている場合じゃない。
彼女を助けることだけに集中しろ。
そう自分へ言い聞かせる。
緊急事態とはいえ、年頃の少女の身体に触れていることへの気まずさはあった。
無事に助かったら謝ろう。
そう心の中で決めながら、自分は処置を続ける。
ただひたすらに。
彼女の命を繋ぐためだけに。