転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー61

 私はまだ死ぬわけにはいかない。

 

 ましてや、こんな尻の青い小僧共に敗れるなどあってはならぬ。

 

 身体は真っ二つ。

 

 普通ならとうに絶命している傷だ。

 

 だが私は生きている。

 

 生きていなければならない。

 

 ここで終わるわけにはいかないのだ。

 

 幸い、私の胴を斬った女は既に力尽きている。

 

 男の方も先程の攻撃で理解した。

 

 奴には今の私を仕留めるだけの力がない。

 

 ならば負ける要素など存在しない。

 

 ――本来ならば。

 

 だが、その慢心こそが先程の敗因だった。

 

 だからもう油断はしない。

 

 今度こそ確実に潰す。

 

 一切の容赦なく。

 

 「出でよ、魔導結界!!」

 

 私は最後の切り札を解放した。

 

 膨大な魔力が体内から流れ出していく。

 

 全身が軋む。

 

 当然だ。

 

 この技は未完成なのだから。

 

 魔導結界。

 

 海滅隊の中でも限られた才覚を持つ者だけが扱える秘術。

 

 しかも私のものはまだ発展途上。

 

 一度発動するだけで莫大な魔力を消費し、今の私では一日に一回使うのが限界だ。

 

 だが、それでも構わない。

 

 完成へ近づくための実戦試験だと思えば安いものだ。

 

 魔海の大行進は既に始まっている頃だろう。

 

 今さら多少の魔力を失ったところで問題はない。

 

 むしろ重要なのは、この成果だ。

 

 この技を完成させる。

 

 そして人類を征服する。

 

 それこそが私の悲願。

 

 いや――

 

 私が再び十死怪へ返り咲くための道だ。

 

 「必ずだ……」

 

 私は奥歯を噛み締めた。

 

 十死怪。

 

 魔王軍最強の幹部達。

 

 かつて私もその一角に名を連ねていた。

 

 だが今は違う。

 

 失敗によってその座を追われた。

 

 海滅隊を率いてはいるものの、それは栄光の座から転げ落ちた者への温情に過ぎない。

 

 周囲は何も言わない。

 

 だが私は知っている。

 

 連中が心のどこかで私を見下していることを。

 

 失敗者。

 

 落伍者。

 

 かつての十死怪。

 

 そう思われていることを。

 

 だから証明しなければならない。

 

 私の価値を。

 

 私の力を。

 

 私が奴等とは違うことを。

 

 「見ていてください……あの方」

 

 思い浮かぶのは絶対の存在。

 

 私達が忠誠を捧げる主。

 

 あの方だ。

 

 この魔導結界を完成させれば、あの方の評価も変わるはず。

 

 海を制し、人類を滅ぼし、新たな領土を捧げれば認められるはずだ。

 

 そしていつの日か――

 

 あの方の右腕にまで上り詰める。

 

 そのためならば手段など選ばん。

 

 私はもう二度と失敗しない。

 

 決して。

 

 絶対にだ。

 

 ――十年前のようには。

 

 自然と記憶が蘇る。

 

 あれは私が十死怪へ加わって間もない頃だった。

 

 当時の魚人族は海では圧倒的な力を誇っていた。

 

 だが陸上では違う。

 

 本来の力の十分の一も発揮できない。

 

 故に我々は海へ足を踏み入れた冒険者達を狙っていた。

 

 獲物を深海へ誘い込み、逃げ場を奪い、嬲り殺しにする。

 

 実に愉快だった。

 

 人間共が絶望に染まる顔を見るたびに、自らの優位を実感できた。

 

 だが、その優位は長く続かなかった。

 

 人類は学習したのだ。

 

 海路を減らし始めた。

 

 代わりに空路を発達させた。

 

 さらに海岸沿いには特殊な結界まで築き上げた。

 

 その結果、我々の縄張りは少しずつ削られていった。

 

 海は我らの領域であるはずだった。

 

 それなのに人間共は当然のように侵食してくる。

 

 許し難かった。

 

 我慢ならなかった。

 

 だから我々は決断した。

 

 奪われる前に奪う。

 

 海から陸へ侵攻するのだと。

 

 私が十死怪に加わったことで部隊の士気も高かった。

 

 あの方に認められた以上、さらなる成果を示したいという焦りもあった。

 

 当時の結界技術は未熟だった。

 

 破ることなど容易い。

 

 上陸作戦は成功する。

 

 誰もがそう信じていた。

 

 ――だが。

 

 魔海の大行進は一人の男によって阻止される。

 

 たった一人。

 

 たった一人の人間によって。

 

 我々の野望は打ち砕かれた。

 

 ――勇者。

 

 あの日から私は、決してその名を忘れたことはない。

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