転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー63

 「そ、そんな……」

 

 頭が真っ白になった。

 

 療養中の身でありながら魔王様からの招集を受け、スクイッドに肩を貸してもらいながら必死に魔王城まで辿り着いた。

 

 それなのに――

 

 到着して早々告げられたのは、あまりにも残酷な宣告だった。

 

 傷はまだ癒えていない。

 

 勇者に負わされた傷も未だ痛む。

 

 だが今この瞬間、胸を貫いた衝撃はその比ではなかった。

 

 立ちくらみを起こしそうになる。

 

 足元が揺れる。

 

 呼吸すら苦しい。

 

 「な、なぜですか、魔王様!」

 

 気付けば叫んでいた。

 

 「先の失敗が原因なのであれば、どうかもう一度だけ機会をお与えください! 次こそ必ずや魔海の大行進を成功させてみせます!」

 

 膝をつく。

 

 頭を下げる。

 

 プライドなどどうでもよかった。

 

 私はまだ終わっていない。

 

 終わるわけにはいかないのだ。

 

 「地上を我ら海滅隊の手で制圧してみせましょう! ですから何卒、ご再考を……!」

 

 必死だった。

 

 無様でも構わない。

 

 見苦しくても構わない。

 

 魔王様に見限られることだけは耐えられなかった。

 

 あれから数か月。

 

 私は傷の治療を続けながら情勢を調べていた。

 

 様々な事件が起きていたらしい。

 

 その中でも最も衝撃だったのは、十死怪最古参にして魔王軍最強の一角――グランドオーダーの死だ。

 

 勇者によって討たれたという。

 

 あの怪物ですら倒される。

 

 改めて勇者という存在の異常さを思い知らされた。

 

 だが、その勇者もまた姿を消した。

 

 消息不明。

 

 生死不明。

 

 理由は誰も知らない。

 

 しかし私にとっては好都合だった。

 

 勇者さえいなければ失敗はしない。

 

 今度こそ魔海の大行進を成功させられる。

 

 そう信じていた。

 

 失った兵は多い。

 

 だが再編は可能だ。

 

 時間さえあれば再び軍勢を整えられる。

 

 だからこそ、もう一度だけ機会が欲しかった。

 

 その想いを伝えようとした時だった。

 

 「――その必要はありません」

 

 「ぬっ?」

 

 聞き覚えのある声が響く。

 

 視線を向けると、玉座の間の柱の陰から一人の女が姿を現した。

 

 黒衣を纏い、不気味な笑みを浮かべる女。

 

 十死怪の一人。

 

 エイシャだった。

 

 「貴様か……エイシャ」

 

 影魔法の使い手。

 

 影の中を自在に移動できる奇妙な女だ。

 

 勇者と交戦し、支配していた村を捨てて逃げたという話も聞いている。

 

 まさか奴も称号を剥奪されたのか。

 

 そう考えた。

 

 だが様子がおかしい。

 

 追放された者特有の焦りがない。

 

 むしろ余裕すら感じられた。

 

 「ったく、おせーぞ魚風情が」

 

 「ッ!?」

 

 さらに後方から声が飛ぶ。

 

 振り返ると、別の柱にもたれ掛かる男がいた。

 

 赤い槍を肩に担いだコボルド。

 

 ダークボルト。

 

 十死怪の一人だ。

 

 奴もまた勇者に敗北したはず。

 

 ならば私と同じ立場のはずだった。

 

 だというのに、どちらも平然としている。

 

 まるで何事もなかったかのように。

 

 「ふん」

 

 私は鼻を鳴らした。

 

 「なるほどな。貴様らも私と同じか」

 

 二人を見る。

 

 少しだけ安心した。

 

 自分だけではない。

 

 勇者に敗れた者達は皆同じ扱いなのだと。

 

 「元十死怪同士で同盟でも組もうという訳か?」

 

 口元に笑みが浮かぶ。

 

 「生憎だが私は違う。魔王様にもう一度機会を頂き、必ず挽回してみせる」

 

 そう言い切った。

 

 その瞬間だった。

 

 エイシャの笑みが深くなる。

 

 嫌な予感がした。

 

 そして――

 

 「何か勘違いしているようですね」

 

 静かな声。

 

 だがその一言は鋭い刃となって私の胸を貫いた。

 

 「降ろされるのは貴方一人ですよ」

 

 「……なに?」

 

 思考が止まる。

 

 理解できない。

 

 理解したくない。

 

 だがエイシャは容赦なく続けた。

 

 「私もダークボルトも十死怪のままです」

 

 そして最後に、残酷な笑みを浮かべながら告げた。

 

 「失格者は貴方だけですよ。グリムフィッシャー」

 

 その瞬間。

 

 勇者に敗れた時以上の衝撃が、私の心を打ち砕いた。

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