転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー67

 その後の私は、まるで抜け殻だった。

 

 身体の傷は癒えた。

 

 勇者に斬られた傷も。

 

 魔海の大行進で受けた損傷も。

 

 今ではほとんど残っていない。

 

 だが――

 

 心だけは違った。

 

 「……」

 

 起き上がる気力が湧かない。

 

 何をする気にもなれない。

 

 私は自室の寝台に横たわったまま、ただ天井を眺め続けていた。

 

 そんな日々が続いていた。

 

 「グリムフィッシャー様。お気分はいかがでしょうか?」

 

 扉の向こうから聞こえる声。

 

 スクイッドだった。

 

 あれ以来、奴は定期的に様子を見に来る。

 

 食事を運び。

 

 怪我の具合を確認し。

 

 何かと世話を焼いてくる。

 

 「……」

 

 だが、私は答えない。

 

 答える気になれなかった。

 

 奴なりに心配しているのだろう。

 

 そんなことは分かっている。

 

 だが分かったところでどうにもならない。

 

 私の気持ちなど、誰にも理解できるはずがないのだから。

 

 「……くそ」

 

 自然と呟きが漏れる。

 

 そして次第に声が大きくなる。

 

 「くそ……!」

 

 胸の奥から怒りが込み上げてくる。

 

 「くそっ!」

 

 拳を握り締める。

 

 「くそッ!!」

 

 寝台を叩く。

 

 「くそおおおおおッ!!」

 

 「ひいっ!?」

 

 扉の向こうで悲鳴が上がった。

 

 慌てた足音が遠ざかっていく。

 

 どうやらスクイッドは逃げ出したらしい。

 

 私は追わなかった。

 

 むしろ好都合だった。

 

 一人になれる。

 

 今の私には、それが何よりありがたかった。

 

 やがて部屋は静寂に包まれる。

 

 聞こえるのは自分の呼吸だけ。

 

 そして私は、また考える。

 

 あの日のことを。

 

 魔王城での出来事を。

 

 十死怪の称号を剥奪された瞬間を。

 

 最近はそればかりだった。

 

 飯は食っている。

 

 スクイッドが運んでくるものを口にはしている。

 

 だが味など覚えていない。

 

 腹が減っているのかどうかすら分からない。

 

 考え事ばかりしているせいだ。

 

 もっとも魚人族は多少食わなくても生きられる。

 

 水さえあれば一週間程度は問題ない。

 

 だから余計に生活が荒れていった。

 

 「……違う」

 

 私は呟く。

 

 何度も何度も繰り返した結論を。

 

 「違う」

 

 そして確信する。

 

 「きっと、あの方は騙されたのだ」

 

 寝台の上で天井を睨む。

 

 そうだ。

 

 そうに決まっている。

 

 魔王様が間違えるはずがない。

 

 ならば原因は別にある。

 

 エイシャだ。

 

 あの影法師が余計な入れ知恵をしたに違いない。

 

 奴は口が回る。

 

 頭も切れる。

 

 都合の悪い話を隠し、自分に有利な情報だけを並べることくらい容易だろう。

 

 「そうだ……奴らのせいだ」

 

 私の失態を大袈裟に語り。

 

 自分達の敗北は矮小化する。

 

 そして私だけを切り捨てる。

 

 実に奴らしいやり方ではないか。

 

 「くそっ……!」

 

 思い出すだけで腹が立つ。

 

 だが同時に理解もしていた。

 

 口論でエイシャに勝つのは難しい。

 

 奴は言葉の化け物だ。

 

 まともにやり合えば、また丸め込まれるだけだろう。

 

 「ならば別の方法しかあるまい」

 

 私は目を閉じる。

 

 魔王様のお言葉を思い出す。

 

 ――貴様には何がある。

 

 ――余に必要だと言わせるだけの価値を示せ。

 

 あの問い。

 

 あれこそが全てだった。

 

 魔王様は結果を求めている。

 

 忠誠心ではない。

 

 根性でもない。

 

 戦争に勝つための価値だ。

 

 クルーシア王国を征服するための力。

 

 地上を制圧するための戦力。

 

 それが必要なのだ。

 

 だから私が選ばれた。

 

 海から侵攻する戦力として。

 

 魚人族という種族に価値を見出してくださったのだ。

 

 だが――

 

 私は期待に応えられなかった。

 

 魔海の大行進は失敗。

 

 海滅隊は壊滅状態。

 

 陸上では本来の力を発揮できない。

 

 その事実を突かれた。

 

 そして十死怪から追放された。

 

 「……」

 

 私は考える。

 

 どうすれば覆せる。

 

 どうすれば魔王様に再び認めていただける。

 

 どうすれば十死怪へ返り咲ける。

 

 答えは一つしかない。

 

 価値を示すこと。

 

 誰にも否定できない価値を。

 

 魚人族が地上でも戦えると証明できれば。

 

 陸上でも海中と同等の力を発揮できれば。

 

 その時こそ――

 

 「……待てよ」

 

 そこで私は目を見開いた。

 

 脳裏に、一つの考えが閃く。

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