転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー68

 「ぐ、グリムフィッシャー様!? 一体どちらへ向かわれるのですか!?」

 

 久方ぶりに自室を出た途端、どこから見ていたのかスクイッドが慌てた様子で飛んできた。

 

 腐っても私の部下だ。どれほど恐れていようと、いかなる時でも私の動向を見張ることだけは欠かしていないらしい。

 

 「……スクイッドよ。私は戻るぞ」

 

 「戻る? 一体どちらへですか?」

 

 「十死怪にだ!!」

 

 「ええっ!?」

 

 私が堂々と言い放つと、スクイッドは目玉が飛び出さんばかりに驚愕した。

 

 無理もない。あれほど盛大に失態を晒し、十死怪の座を剥奪された私が復帰を口にしたのだから。

 

 「し、しかしグリムフィッシャー様! 魔王様が一度剥奪した称号を再び与えるとは思えませんが……」

 

 「貴様の言いたいことは分かっておる」

 

 私は腕を組みながら鼻を鳴らした。

 

 「無論、あの御方がそう簡単に称号を返してくださるとは思っておらぬ。だが、魔王様が重視されるのは過去の失敗ではない。今、その者が目的のために必要か否かだ」

 

 「は、はあ……」

 

 「ならば話は簡単。私が魔王様に『必要だ』と思わせるだけの力を手に入れればよいのだ!」

 

 「ですが、それが可能なのでしょうか? そもそも我々が見限られたのは魚人族だからです。海中戦では無類の強さを誇りますが、陸上では活躍の場が限られる。だからこそ、あのような処分を……」

 

 その言葉を聞いた私は、不敵な笑みを浮かべた。

 

 「ならば陸を海にしてしまえばよい!!」

 

 「……は?」

 

 一瞬、スクイッドの思考が停止した。

 

 「ど、どういう意味ですか!? 陸を海にするなど……」

 

 「簡単な話だ」

 

 私は人差し指を立てながら続ける。

 

 「あやつらが何故、敗北してなお十死怪の座に残れたのか。その理由を私はずっと考えていた」

 

 「それで、何か分かったのですか?」

 

 「ああ。理由は明白だった」

 

 私は力強く言い切った。

 

 「私になく、奴らにあるもの。それは――『奥の手』だ」

 

 「奥の手……?」

 

 スクイッドは怪訝そうに首を傾げる。

 

 「エイシャの影魔法は潜入や奇襲に優れ、戦場において極めて有用だ。ダークボルトの速度もまた、一対多の戦いでは脅威となる。だが、それだけではない」

 

 私は拳を強く握り締めた。

 

 「いくら優れた力を持っていようと、敗北しただけで見限られる程度の存在ならば、魔王様は決して評価なさらぬ。奴らには、いざという時に戦況そのものを覆す切り札があったのだ」

 

 「そ、そのような力が本当に?」

 

 「噂で聞いた話だがな」

 

 私は目を細める。

 

 「魔物の中でも、ごく一握りの者しか習得できぬ特殊な魔法が存在するらしい。その魔法は結界を展開し、内部の環境そのものを書き換えるという」

 

 「まさか……」

 

 「そうだ。もし私がその魔法を習得できれば、戦場を丸ごと海へと変えることも夢ではない」

 

 スクイッドは息を呑んだ。

 

 海中ならば魚人族は無敵に近い。

 

 敵は泳ぐことすらままならず、我々だけが本来の力を発揮できる。

 

 まさしく戦場そのものを支配する力だった。

 

 「そ、それが実現できれば……!」

 

 「ふははは! ようやく理解したか!」

 

 私は高らかに笑う。

 

 「仮にも私は一度、十死怪にまで上り詰めた男だ。奴らにできて私にできぬ道理はない!」

 

 そして天を仰ぎながら叫んだ。

 

 「見ておれ! 必ずやその力を手に入れ、奴らを見返してやる! そして再び十死怪へ返り咲き、魔王様のお側に仕えてみせるぞ!!」

 

 「おお……!」

 

 「ふはははははは!!」

 

 私の笑い声が部屋中に響き渡る。

 

 たとえ失敗しようと、たとえ誰に笑われようと構わない。

 

 魔王様に見限られたままで終わるつもりなどなかった。

 

 魔導結界。

 

 習得できる保証などどこにもない。だが、僅かでも復帰の可能性があるのならば、私はその可能性に全てを賭ける。

 

 そうして私は長い年月を費やし、血の滲むような研鑽を重ねた。

 

 仲間を集め、力を蓄え、幾度となく失敗を繰り返しながらも歩みを止めることはなかった。

 

 その執念の果てに、ついに魔導結界を習得することに成功する。

 

 そして同志を増やし、自らの勢力を築き上げた結果が――今の私である。

 

 全ては、再び魔王様に認められるため。

 

 十死怪への返り咲きという悲願を果たすために。

 

 グリムフィッシャーの野望は、この時から始まっていたのだった。

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