「断ち切れ、小風《こかぜ》の刃――【
鋭い風の刃が海面を切り裂きながら飛翔し、迫っていた魚人族の一体を吹き飛ばす。
マヒロちゃんがサダメ君の元へ向かった後、私達は冒険者さん達と共に押し寄せる魚人族の群れを迎え撃っていた。
本当は私達もサダメ君達を追いかけたかった。
だけど冒険者さん達からは危険だからと止められてしまった。
それでも私は何度も食い下がった。
「二人が帰ってくるまでここを守ります」
そう言い続けた結果、ようやく渋々ながら協力を認めてもらえたのだ。
「くっ! これじゃ埒が明かねえぞ!」
「騎士団がもうすぐ到着するはずだ! それまで何とか持ちこたえろ!」
「持ちこたえるって、この数相手にどうしろってんだ!?」
「文句言ってる暇があるなら手を動かしなさいよ! 一体でも上陸されたら次から次へと押し寄せてくるんだから!」
「分かってるよ! クソがっ!」
怒号が飛び交う。
冒険者さん達の表情にも焦りが浮かび始めていた。
無理もない。
倒しても倒しても終わりが見えない。
魚人族達は波のように押し寄せ、数を減らしているようにはとても見えなかった。
皆、不安なのだ。
このまま防ぎ切れるのか。
本当に援軍は間に合うのか。
そんな思いが少しずつ心を蝕んでいる。
そして――。
正直に言えば、私も同じだった。
魔物達への恐怖もある。
だけど、それ以上に気になってしまう。
サダメ君とマヒロちゃんのことが。
二人は無事なのだろうか。
今も戦っているのだろうか。
もし帰って来なかったら――。
そんな考えが頭をよぎる度に、胸がぎゅっと締め付けられる。
「ミオ君、大丈夫かい?」
「っ!? ソンジさん」
不意に声を掛けられ、私は肩を震わせた。
振り返ると、そこには剣を構えたソンジさんが立っていた。
普段から面倒見の良い人だけど、こうして戦闘中にわざわざ声を掛けてくれるとは思わなかった。
「二人ならきっと大丈夫さ」
ソンジさんは穏やかに笑う。
「だから今は、私達にできることをやろうじゃないか」
「……」
どうやら私の考えていたことは全部見抜かれていたらしい。
自分では平静を装っていたつもりだったのに。
もしかすると、無意識のうちに顔に出ていたのかもしれない。
少しだけ恥ずかしくなる。
だけど――。
「……はい!」
その言葉のおかげで気持ちが軽くなった。
そうだ。
今は心配している場合じゃない。
二人を信じるなら、私も私の役目を果たさなければ。
サダメ君達が戻ってくるまで、この場所を守り抜く。
それが今の私にできることだ。
「ふぅ……」
私は大きく息を吐き、海を見据える。
こちらの戦力は私達を含めても十人に満たない。
一方、魚人族は何十倍もの数で押し寄せている。
一体ずつ相手をしていては間に合わない。
ならば広範囲を一度に攻撃できる魔法を使うしかない。
私は静かに目を閉じた。
意識を集中させる。
潮風の流れ。
空気の動き。
海面を撫でる風の感触。
全てを感じ取る。
あの時と同じように。
自然の力を借りて、自分の魔力と重ね合わせる。
「嵐の潮風は次第に大きくなり――」
私の周囲に風が集まり始める。
「巨大なる竜巻を生み――」
吹き荒れる潮風が円を描くように渦を形成した。
海面が激しく波打ち、水飛沫が舞い上がる。
「海の戦士を滅ぼさん――!」
風圧はさらに増大する。
渦は勢いを増しながら天へと伸び、海水を巻き込み始めた。
ゴォォォォォッ――!!
轟音が響く。
渦巻く風と海水が巨大な柱となり、海上にそびえ立つ。
それはまるで海龍そのものだった。
「す、すげぇ……」
冒険者の誰かが思わず声を漏らす。
私自身も少し驚いていた。
初めて使う魔法だったけれど、想像以上の規模になっている。
まだ大きくできそうな気もする。
だけど今は十分だ。
これだけあれば――。
「【
私は両手を振り下ろした。
その瞬間。
巨大な海上竜巻が生き物のようにうねりながら前進を始める。
魚人族達が驚愕の声を上げた。
「なっ!?」
「ば、馬鹿な!?」
海龍は獲物を狙うかのように進み、魚人族の群れへ突っ込む。
一人。
二人。
三人。
いや、それだけでは終わらない。
竜巻は次々と魚人族を巻き上げ、吹き飛ばし、飲み込んでいく。
海面には悲鳴が響き渡り、敵の陣形が一瞬で崩壊した。
荒れ狂う海龍はなおも勢いを失わず、怒涛のごとく魚人族達を蹂躙していくのだった。