「はあ……はあ……はあ……」
荒くなった呼吸を整えながら、私は海を見つめる。
「……マジかよ、これ」
自分でも思わずそんな言葉が漏れてしまった。
私が放った【
巨大な水竜を思わせる竜巻は次々と魔物達を呑み込み、海中へ叩き落としていく。
そして数十秒ほど暴れ回った後、力を使い果たしたように静かに霧散した。
どうやら今の私の魔力量では、あれが限界らしい。
もっと長く維持できれば良かったのだけど、それは今後の課題だろう。
それでも十分な成果はあった。
少なくとも砂浜付近まで迫っていた魚人族の集団はほぼ一掃できたはずだ。
時間稼ぎにはなった。
きっと。
「す、すげえ……」
「なんなんだよ、あの魔法……」
「この子、本当に学生なの?」
周囲から驚愕の声が上がる。
私はそれに返事をする余裕もなく、膝に手をついて肩で息をしていた。
全身から汗が噴き出している。
頭も少しぼうっとする。
思った以上に魔力を消耗していたらしい。
それでも不思議と嫌な疲労感ではなかった。
むしろ達成感の方が大きい。
冒険者達が驚くのも無理はない。
正直な話、私自身が一番驚いていた。
まさかあれほどの規模になるとは思っていなかったからだ。
少し前までの私なら絶対に無理だった。
そう考えると、少しは成長できているのかもしれない。
そんなことを考えていると――。
『ミオ、大丈夫?』
「フィーちゃん……」
聞き慣れた声が耳に届く。
顔を上げると、フィーちゃんが心配そうな表情でこちらを見ていた。
その手には水筒が握られている。
どうやら私のために持って来てくれたらしい。
「うん。大丈夫だよ。ありがとう」
私は笑顔で答えながら水筒を受け取った。
そして蓋を開けると、一気に水を流し込む。
ごくっ、ごくっ、と喉を鳴らす。
冷たい水が身体の奥へ染み渡っていく。
敵を迎撃することに必死で気付いていなかったが、どうやら相当喉が渇いていたようだ。
汗で失った水分が補給されるたびに、少しずつ身体が楽になっていくのを感じた。
「……ふぅ」
息を吐きながら水筒を下ろす。
するとそのタイミングで、海を監視していたソンジさんが口を開いた。
「ざっと確認した感じだと、敵戦力の三分の一近くは削れたかもしれないね」
「三分の一……」
思わず呟く。
半数には届かない。
けれど、あれだけの大軍を相手に三分の一を減らせたなら十分な成果だ。
「凄いよ、ミオ君」
双眼鏡から目を離したソンジさんが穏やかに笑う。
「君のおかげで勝機が見えてきた」
その言葉に少しだけ胸が軽くなった。
敵の数はまだ多い。
だけど確実に希望は見えている。
騎士団の援軍も近付いているはずだ。
このまま持ちこたえられれば――。
きっと。
そうなればサダメ達の救出にも向かえる。
だからあと少し。
二人とも、もう少しだけ頑張って――。
「……ん?」
その時だった。
ソンジさんが突然怪訝そうな声を漏らした。
「どうしたんですか?」
私は首を傾げる。
だがソンジさんは答えず、再び双眼鏡を覗き込んでいた。
何かを確認するように。
何かを探すように。
その様子が妙に気になり、私も海へ視線を向ける。
けれど、私の目には魚人族の群れ以外何も映らない。
「何か見えるんですか?」
そう問い掛けると、ソンジさんは少し迷うような表情を浮かべた。
「……いや」
一度言葉を切る。
そして。
「気のせいかもしれないんだけどね」
そう前置きしてから続けた。
「海が光っているように見えるんだ」
「海が?」
思わず聞き返す。
『太陽の反射ではなくて?』
フィーちゃんも不思議そうに尋ねた。
「ああ」
ソンジさんは頷く。
「他の場所とは明らかに違う。海中から光が漏れ出しているように見えるんだ」
「海中から……?」
その言葉を聞いた瞬間だった。
私の中で何かが繋がった。
海中。
光。
この状況でそんなことをする人物。
そして今まさに行方が分からなくなっている人物。
「……あ」
鼓動が大きく跳ねる。
まさか。
いや、間違いない。
あの光は自然現象なんかじゃない。
誰かが意図的に放っている光だ。
そしてそんなことができる人は、一人しか思い浮かばない。
「はっ!?」
私は勢いよく顔を上げた。
『ミオ!?』
驚くフィーちゃんの声が聞こえる。
だが、今はそれどころではない。
胸の奥から確信にも似た感情が湧き上がっていた。
あそこだ。
あの光の先にいる。
サダメが。
そしてマヒロが。
私達へ必死に居場所を知らせているんだ――。