「……はあ」
ミオの足音が廊下の奥へと遠ざかっていくのを確認し、僕はようやく大きく安堵の溜め息を吐いた。マジでバレるかと思った……。彼女の勘が意外と鈍かったことに、心底ホッとしている。
その束の間の静寂を破るように——
「うむ? これは……なんでござるか?」
「うおっ!?」
マヒロがとうとう目を覚ました。ミオがいなくなったのは不幸中の幸いだったが、この状況を彼女本人に見られるのはまた別の意味で気まずい。なんとか誤解を解かねば。
「……なんか、柔らかい触感なのに、だんだん硬くなってきたでござるよ?」
「い、いや、違うから!? なんでもないから!! 本当に何でもない!!」
「おろ?」
マヒロが寝ぼけ眼のまま、僕の股間付近に顔を近づけ、甘噛みしようと口を尖らせる。慌てて腰を引いて距離を取った。寝ぼけているとはいえ、これ以上は危険すぎる。すでに少し反応してしまっていた下半身を、急いで体育座りで隠す。
「んっ……おろろ。拙者としたことが、すっかり寝入ってしまっていたようでござるな」
「……お、おう。そうみたいだな」
マヒロは欠伸をしながらゆっくりと上体を起こした。毛布が肩から滑り落ち、彼女の白く滑らかな裸体が朝の柔らかな光に晒される。まだ寝ぼけているのか、状況を完全に把握していない様子だ。
「そ、そういえばマヒロ、大丈夫だったか? 昨日は色々大変だっただろう? 体調はどうだ? どこか痛いところはないか?」
「んん?」
勘づかれる前に話題を逸らそうと、僕は必死に話を振った。アクシデントとはいえ、あの卑猥な体勢を正直に説明するのは気が引ける。世の中、知らなくていいことはたくさんある。本人が気づいていないなら、この件は墓場まで持っていくことにしよう。
「んー、特に問題はないでござるよ。寧ろ久方ぶりに、すっごく心地好く眠れたでござる」
「そ、そっか。それならよかった……っていうか、なんで裸なんだよ?」
マヒロはのんびりと背伸びをしながら答えた。あれだけぐっすり眠れていたなら、毒も抜けているようだ。よかった——のだが、根本的な問題はまだ残っている。
なぜ彼女は自分のベッドに潜り込んできたのか。そして全裸で。 今更ながら、真正面から彼女の裸体と向き合っていることに気づき、目のやり場に困る。自分も上半身裸だし、この状況だけ見たら完全に事後のような雰囲気だ。朝チュンしてました、と言われても反論できない。
「……それは、サダメと……」
「俺と?」
するとマヒロの頰が、ぽっと赤く染まった。いつもなら躊躇なく脱ぎ散らかす彼女が、珍しく言葉を濁し、恥ずかしそうに視線を泳がせている。
その表情は、僕が今まで見たことのないものだった。無邪気で大胆なマヒロの、意外な少女らしい一面。胸の奥が、くっと締め付けられるような感覚がした。
「サダメの……温もりが、近くにあった方が……なんだか、安心して眠れるような……気がして……」
彼女は毛布の端を指先でいじりながら、小さな声で続けた。耳まで真っ赤になっている。
(……これは、もしかして?)
心臓が一瞬、大きく跳ねた。
ただの寝相の悪さや抱き枕扱いではなく、彼女なりの好意や信頼の表れだったのだろうか。それとも、もっと深い想いが……?
朝の柔らかな日差しが部屋に差し込み、二人の間に微妙な沈黙が落ちる。マヒロの濡れたような瞳が、恥ずかしげにこちらを見つめていた。