「……」
嵐を思い描いているはずなのに、実際に生まれるのはせいぜい荒い風が渦を巻くだけ。
吹き荒れてはいる。だが“嵐”と呼ぶにはあまりにも弱い。
――何が足りない?
魔力か。
それとも、イメージの精度か。
あるいは、その両方。
「はあ……はあ……」
風魔法の余波で、近くに積まれていた木箱と魔造種の保管ケースが吹き飛び、床に散乱している。
そのせいで倉庫内の魔力の流れは歪み、あちこちで乱流のような魔力の渦が生まれていた。
時折、強い魔力の塊が私の身体にぶつかり、頭の奥がくらりと揺れる。
――魔力酔い。
服用していた酔い止めの効果も、そろそろ限界が近い。
これ以上長引かせれば、自分が先に倒れる。
「でも……どうすれば、もっと大きい風を出せるのよ……」
私が今出せる風は、せいぜい大きなボールほどの塊。
それでは、この倉庫を壊すどころか、箱を転がすのが精一杯だ。
――もっと。
――圧倒的な風。
「んんーっ!」
今度は欲張らない。
嵐ではなく、“ただ大きな風”を思い描く。
木箱をまとめて吹き飛ばす程度の規模。まずはそこから。
「んっ……んーーーーっ!!」
額に汗が滲む。
手のひらは湿り、指先が震えている。
集中しているはずなのに、魔法陣は安定しない。
――まだ足りない?
――私の魔力が少ないから?
「……違う」
自分でその考えを振り払う。
私は治癒魔法と風魔法の両方を扱える。
魔力量が少ないわけがない。
足りないのは、“信じ切る力”だ。
「ダメ! 絶対、あきらめないんだから!!」
自分に言い聞かせるように叫び、魔力をさらに注ぎ込む。
――イメージを、もっと鮮明に。
――私を中心に、渦巻く風。
――守るように、巻き上がる小さな竜巻。
「はぁあああああああああ!!」
手のひらから生まれた風は、私の身体を包むように円を描く。
柔らかな渦。
だが、確かに“竜巻の核”だ。
「……もっと荒く。もっと強く……!」
私は目を閉じ、音だけに意識を集中する。
風が壁を打つ音。
箱が転がる音。
空気が裂ける低い唸り。
――いい。
――このまま、さらに大きく。
「ぁああああああああああ!!!!」
倉庫のどこかで、木材がぶつかり合う音。
金属が軋む高い悲鳴。
空間そのものが揺れているような錯覚。
――もう少し。
――あと少しで……!
「はあああああああああっ!!!!!!」
全魔力を解き放った瞬間――
ふっと、風の音が消えた。
「……?」
私はゆっくりと目を開く。
視界に入ったのは、床に突いた自分の手。
手のひらは汗でぐっしょりと濡れ、そこから風は一切出ていなかった。
――失敗?
不安が胸をよぎる。
ここまでやって、何も変わっていなかったら……。
恐る恐る、顔を上げる。
「……っ?!」
目の前に広がっていたのは、想像を超えた光景だった。
倉庫は――消えていた。
正確には、“原型を留めていなかった”。
壁は削れ、天井は吹き飛び、床には巨大な円形の痕が刻まれている。
そして、その中心。
――私。
私を核に、小さな竜巻が今もなお静かに回転していた。
「……ウソ……」
呆然とした声が、風音に溶けて消える。
イメージ通り。
いや、それ以上。
自分が生み出した力を、私はまだ理解しきれていなかった。