『そういえば、あの時ギリスケ君いなかったよね? 皆が大変な目に遭ってた時、どこに行ってたの?』
「ふっ。その時は綺麗なお姉さん達が怯えて動けなくなっててな。優しい俺様が安全な場所までエスコートしてあげてたのさ」
「おやおや~? さっきはナンパしてないって言ってなかったっけ?」
『状況的にかなり怪しいですけどね』
「いやいやいや! 本当に親切でやっただけだからな!? 流石にナンパする時と場所くらいは弁えるって!」
「ほんとかなー?」
『所構わず声を掛けてそうだけどね』
「あれれ? 俺、そんな軟派な男に見える?」
『「見える!!」』
「うっそーん!?」
馬車の中に笑い声が響く。
隣町へ向かう道中、ギリスケ達三人は相変わらず楽しそうに談笑していた。
一方で自分達はというと、怪我こそ治ったものの疲労が抜け切っておらず、馬車の隅で休んでいた。
まだ帰り道は長い。
無理をする理由もない。
少しでも体力を回復させておこうと思い、目を閉じていたのだが――。
「……」
どうにも眠れない。
身体は疲れている。
むしろ今すぐ横になっていたいくらいだ。
それなのに頭だけが妙に冴えていた。
気が付けば三十分近く経っている。
寝過ぎたせいか軽い頭痛もあるし、ギリスケ達の楽しそうな会話も耳に入ってくる。
おかげで一向に眠気が訪れない。
「はぁ……」
小さく息を吐きながら目を開ける。
馬車の中には自分達しかいなかった。
ギリスケ達は前方の席で盛り上がっている。
隣町に着けば彼らとも別行動になる。
本来なら少しくらい会話に混ざってもいいのだろう。
だが今は気力が湧かない。
疲労感の方が勝っていて、身体を起こす気にもなれなかった。
そんな中、自然と視線が向いたのは馬車の中央だった。
毛布に包まりながら眠るミオとマヒロ。
二人は肩を寄せ合うようにして眠っている。
その姿はどこか微笑ましく、仲の良い姉妹のようにも見えた。
「……」
そこで再び、ある疑問が頭をよぎる。
結局、あの日のことははっきり聞けずじまいだった。
あの宿で目を覚ました時の出来事。
ミオには「寝ぼけていただけ」と説明していたようだが、どうにも引っ掛かる。
理由は自分でも分からない。
ただ、その時のマヒロは何かを隠しているように見えた。
そんな気がしてならなかった。
だからだろうか。
今でも時折、その時のことを思い出してしまう。
そして考えれば考えるほど、余計に気になってしまう。
「……いやいや」
自分は頭を軽く振った。
駄目だ。
これ以上考えるのはよくない。
別に深い意味なんてないはずだ。
そもそも彼女はあのマヒロだ。
変な駆け引きをするような性格ではない。
それに――。
「何考えてるんだ、俺は」
苦笑が漏れる。
見た目こそ若いが、自分の中身はいい歳をした大人だ。
変に意識してどうする。
そう自分に言い聞かせる。
しかし、そうやって否定しようとするほど、逆に意識していることを認めているような気もした。
「ッ~~~……」
思わず毛布を頭まで引き上げる。
考えるな。
余計なことは考えるな。
そう自分に何度も言い聞かせながら、無理やり思考を切り替えようとするのだった。
――転生勇者が死ぬまで、残り3950日。