転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ー86

 『そういえば、あの時ギリスケ君いなかったよね? 皆が大変な目に遭ってた時、どこに行ってたの?』

 

 「ふっ。その時は綺麗なお姉さん達が怯えて動けなくなっててな。優しい俺様が安全な場所までエスコートしてあげてたのさ」

 

 「おやおや~? さっきはナンパしてないって言ってなかったっけ?」

 

 『状況的にかなり怪しいですけどね』

 

 「いやいやいや! 本当に親切でやっただけだからな!? 流石にナンパする時と場所くらいは弁えるって!」

 

 「ほんとかなー?」

 

 『所構わず声を掛けてそうだけどね』

 

 「あれれ? 俺、そんな軟派な男に見える?」

 

 『「見える!!」』

 

 「うっそーん!?」

 

 馬車の中に笑い声が響く。

 

 隣町へ向かう道中、ギリスケ達三人は相変わらず楽しそうに談笑していた。

 

 一方で自分達はというと、怪我こそ治ったものの疲労が抜け切っておらず、馬車の隅で休んでいた。

 

 まだ帰り道は長い。

 

 無理をする理由もない。

 

 少しでも体力を回復させておこうと思い、目を閉じていたのだが――。

 

 「……」

 

 どうにも眠れない。

 

 身体は疲れている。

 

 むしろ今すぐ横になっていたいくらいだ。

 

 それなのに頭だけが妙に冴えていた。

 

 気が付けば三十分近く経っている。

 

 寝過ぎたせいか軽い頭痛もあるし、ギリスケ達の楽しそうな会話も耳に入ってくる。

 

 おかげで一向に眠気が訪れない。

 

 「はぁ……」

 

 小さく息を吐きながら目を開ける。

 

 馬車の中には自分達しかいなかった。

 

 ギリスケ達は前方の席で盛り上がっている。

 

 隣町に着けば彼らとも別行動になる。

 

 本来なら少しくらい会話に混ざってもいいのだろう。

 

 だが今は気力が湧かない。

 

 疲労感の方が勝っていて、身体を起こす気にもなれなかった。

 

 そんな中、自然と視線が向いたのは馬車の中央だった。

 

 毛布に包まりながら眠るミオとマヒロ。

 

 二人は肩を寄せ合うようにして眠っている。

 

 その姿はどこか微笑ましく、仲の良い姉妹のようにも見えた。

 

 「……」

 

 そこで再び、ある疑問が頭をよぎる。

 

 結局、あの日のことははっきり聞けずじまいだった。

 

 あの宿で目を覚ました時の出来事。

 

 ミオには「寝ぼけていただけ」と説明していたようだが、どうにも引っ掛かる。

 

 理由は自分でも分からない。

 

 ただ、その時のマヒロは何かを隠しているように見えた。

 

 そんな気がしてならなかった。

 

 だからだろうか。

 

 今でも時折、その時のことを思い出してしまう。

 

 そして考えれば考えるほど、余計に気になってしまう。

 

 「……いやいや」

 

 自分は頭を軽く振った。

 

 駄目だ。

 

 これ以上考えるのはよくない。

 

 別に深い意味なんてないはずだ。

 

 そもそも彼女はあのマヒロだ。

 

 変な駆け引きをするような性格ではない。

 

 それに――。

 

 「何考えてるんだ、俺は」

 

 苦笑が漏れる。

 

 見た目こそ若いが、自分の中身はいい歳をした大人だ。

 

 変に意識してどうする。

 

 そう自分に言い聞かせる。

 

 しかし、そうやって否定しようとするほど、逆に意識していることを認めているような気もした。

 

 「ッ~~~……」

 

 思わず毛布を頭まで引き上げる。

 

 考えるな。

 

 余計なことは考えるな。

 

 そう自分に何度も言い聞かせながら、無理やり思考を切り替えようとするのだった。

 

 ――転生勇者が死ぬまで、残り3950日。

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