「ただいま~!!」
「ミオ、サダメ、おかえり~!!」
「た、ただいま――ぐえっ!?」
シッター村を出発してから約三日。
ソンジさん達と別れた後、何度か馬車を乗り継ぎ、ようやくリーヴ村へ帰ってきた。
長かった。
本当に長かった。
魔海の大行進という大事件を経験したせいか、行きの旅路よりも何倍も疲れている気がする。
馬車の中では休んでいたつもりだったが、結局あまり眠れなかった。
身体は疲れているのに頭だけが妙に冴えてしまい、余計に体力を消耗したような気がする。
そんな状態で村へ戻ってきた結果――。
「よく帰ってきたわねぇぇぇ!!」
「ぐっ……!」
村へ入った瞬間、エリカさんの熱烈な抱擁が飛んできた。
隣ではミオも同じように抱き締められている。
疲れ切っている今の自分に避ける余裕などない。
ただされるがままになるしかなかった。
そして――。
痛い。
愛情表現のはずなのに、普通に痛い。
「二人とも帰ってきたか」
聞き慣れた落ち着いた声が響く。
教会の入り口から神父様が姿を現した。
「神父様」
「話は聞いている。随分と大変だったようだな」
その表情には安堵と労いが滲んでいた。
どうやら今回の騒動は既に各地へ広まっているらしい。
シッター村が魔物の群れに襲われたことも、リーヴ村へ伝わっていたようだ。
「シスター。二人とも疲れているんだ。少し休ませてやりなさい」
「ッ!? そ、そうだった!」
エリカさんが慌てて手を離す。
「ごめんね!? 本当に心配だったのよ! 無事だって聞いていても顔を見るまでは安心できなくて!」
「う、うん。ありがとう」
「だからその……離してくれると嬉しいかな」
「あら?」
ようやく抱擁から解放される。
肺が潰れるかと思った。
正直、魔物より危険だったかもしれない。
「ちょっと痛かった?」
「ちょっとどころじゃ――」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
即座に訂正した。
エリカさんに悪気はない。
ただ愛情表現が少々激しいだけだ。
下手なことを言うと再び抱き締められかねない。
それだけは避けたかった。
「変なサダメね」
エリカさんは首を傾げる。
幸い疑われてはいないようだ。
「それより二人とも、お昼は食べた? 私達はもう済ませちゃったけど、お腹が空いてるなら何か作るわよ?」
時刻は昼過ぎ。
言われてみれば腹は減っている。
まともな食事を取ったのは移動中だったし、温かい料理は恋しかった。
だが、その前に話しておかなければならないことがある。
「それなんだけど」
ミオが一歩前へ出る。
「二人にお願いがあるの」
「お願い?」
「しばらくの間、泊めてほしい子がいるんだ」
その言葉にエリカさんと神父様が顔を見合わせる。
突然の申し出だったから無理もない。
ミオはそんな二人へ向かって微笑んだ。
「入ってきていいよ」
その声に応じるように、教会の外で待っていた人物がゆっくりと姿を現す。
長い黒髪を後ろで結び、凛とした雰囲気を纏う少女。
見慣れない顔に、エリカさん達は目を丸くした。
少女は二人の前まで歩み出ると、姿勢を正して丁寧に頭を下げる。
そして――。
「お初にお目にかかる」
落ち着いた声が響いた。
「拙者、マヒロ・トーエンと申す」
それが、リーヴ村におけるマヒロとの最初の出会いだった。