「ふう……やっぱ熱い風呂は最高だな」
その日の夜、夕食を終えた僕は久しぶりの湯船に浸かり、深く息を吐いた。シッター村ではシャワー程度しか浴びられなかったし、帰り道も小川で軽く身体を拭うだけだった。約一週間ぶりの本格的な風呂は、身体の芯まで温まり、疲れが溶けていくようだった。
「……はあ。女子二人を差し置いて申し訳ないけど、ちょっとだけ長風呂しよっかな~」
普段はミオが優先して入浴しているが、今日はマヒロに宿の案内やルールなどを教える必要があるということで、特別に先に入らせてもらっていた。誰も来ないだろうと高をくくり、ゆっくりと湯に浸かっていた。
しかし——
「ほお? なかなかよい風呂場でござるな」
「ぶっ!?」
湯船の中で目を閉じていた僕は、突然聞こえた声に驚いてずっこけた。鼻と口に大量のお湯が入り、激しく咳き込む。
入り口に立っていたのは、当然のように全裸のマヒロだった。白く滑らかな肌が湯気の向こうにくっきりと浮かび上がり、鍛えられたしなやかな肢体と、ところどころに刻まれた古い傷跡が、妖しく艶めいている。濡れた前髪が頰に張り付き、無邪気な瞳がこちらをまっすぐ見つめていた。
「おお? サダメもまだ入浴中でござったか。なら、拙者も一緒に……」
「いやいやいや!? ダメに決まってんだろ!?」
「おろ? そうなのでござるか?」
当然のように湯船に入ろうとするマヒロを、僕は慌てて制止した。大事な部分を両手で隠しながら、湯船から上がり、早足で出口に向かう。
こんな混浴シーンをミオに見られたら、絶対に誤解される。しかも最近マヒロに対して妙に意識してしまっている今、彼女の裸体を間近で見続けるのは心臓に悪い。
「待ってよマヒ……ロ?」
「あっ」
風呂場の引き戸を開けた瞬間、ちょうど入ってこようとしていたミオと真正面から鉢合わせした。
一瞬の沈黙。
ミオの視線が、ゆっくりと僕の股間へと落ちていく。蒸気でぼんやりした視界の中でも、彼女の顔がみるみる赤く染まっていくのがはっきりとわかった。
「ミオも来たでござるな。ならば三人で一緒に背中でも流し合おう……」
「ななな、何してんのよ、この変態!!」
「ぶはっ!?」
マヒロの呑気な提案など完全に無視し、ミオは持っていた着替えの入った木桶を全力で投げつけてきた。僕は大事な部分を隠すのに必死で顔面ガードができず、モロに直撃を受けた。
「ぐえっ!?」
鼻血が勢いよく噴き出し、身体が後ろに吹っ飛ぶ。湯船の縁に背中を打ちつけ、大量の湯しぶきが上がった。熱いお湯と冷たい床の感触、そして鼻の奥に広がる鉄の匂い。
せっかくのいい気分が、一瞬で台無しになった。
「違う! 誤解だ! 俺は何もしてないぞ!?」
床に倒れ込んだまま必死に言い訳するが、ミオは耳まで真っ赤にしたまま、怒りと羞恥で瞳を潤ませている。マヒロはまだ状況が飲み込めていないのか、きょとんとした顔で二人を見比べていた。
ああ、せっかくの久しぶりの長風呂が……。なんで自分はいつもこうなるのだろうか。 湯気の立ち込める風呂場に、僕の情けない呻き声とミオの怒声、そしてマヒロののんびりした「でござる」が響き渡った。