転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

432 / 441
第8章ーおまけ2

 「ふう……やっぱ熱い風呂は最高だな」

 

 その日の夜、夕食を終えた僕は久しぶりの湯船に浸かり、深く息を吐いた。シッター村ではシャワー程度しか浴びられなかったし、帰り道も小川で軽く身体を拭うだけだった。約一週間ぶりの本格的な風呂は、身体の芯まで温まり、疲れが溶けていくようだった。

 

 「……はあ。女子二人を差し置いて申し訳ないけど、ちょっとだけ長風呂しよっかな~」

 

 普段はミオが優先して入浴しているが、今日はマヒロに宿の案内やルールなどを教える必要があるということで、特別に先に入らせてもらっていた。誰も来ないだろうと高をくくり、ゆっくりと湯に浸かっていた。

 

 しかし——

 

 「ほお? なかなかよい風呂場でござるな」

 

 「ぶっ!?」

 

 湯船の中で目を閉じていた僕は、突然聞こえた声に驚いてずっこけた。鼻と口に大量のお湯が入り、激しく咳き込む。

 

 入り口に立っていたのは、当然のように全裸のマヒロだった。白く滑らかな肌が湯気の向こうにくっきりと浮かび上がり、鍛えられたしなやかな肢体と、ところどころに刻まれた古い傷跡が、妖しく艶めいている。濡れた前髪が頰に張り付き、無邪気な瞳がこちらをまっすぐ見つめていた。

 

 「おお? サダメもまだ入浴中でござったか。なら、拙者も一緒に……」

 

 「いやいやいや!? ダメに決まってんだろ!?」

 

 「おろ? そうなのでござるか?」

 

 当然のように湯船に入ろうとするマヒロを、僕は慌てて制止した。大事な部分を両手で隠しながら、湯船から上がり、早足で出口に向かう。

 

 こんな混浴シーンをミオに見られたら、絶対に誤解される。しかも最近マヒロに対して妙に意識してしまっている今、彼女の裸体を間近で見続けるのは心臓に悪い。

 

 「待ってよマヒ……ロ?」

 

 「あっ」

 

 風呂場の引き戸を開けた瞬間、ちょうど入ってこようとしていたミオと真正面から鉢合わせした。

 

 一瞬の沈黙。

 

 ミオの視線が、ゆっくりと僕の股間へと落ちていく。蒸気でぼんやりした視界の中でも、彼女の顔がみるみる赤く染まっていくのがはっきりとわかった。

 

 「ミオも来たでござるな。ならば三人で一緒に背中でも流し合おう……」

 

 「ななな、何してんのよ、この変態!!」

 

 「ぶはっ!?」

 

 マヒロの呑気な提案など完全に無視し、ミオは持っていた着替えの入った木桶を全力で投げつけてきた。僕は大事な部分を隠すのに必死で顔面ガードができず、モロに直撃を受けた。

 

 「ぐえっ!?」

 

 鼻血が勢いよく噴き出し、身体が後ろに吹っ飛ぶ。湯船の縁に背中を打ちつけ、大量の湯しぶきが上がった。熱いお湯と冷たい床の感触、そして鼻の奥に広がる鉄の匂い。

 

 せっかくのいい気分が、一瞬で台無しになった。

 

 「違う! 誤解だ! 俺は何もしてないぞ!?」

 

 床に倒れ込んだまま必死に言い訳するが、ミオは耳まで真っ赤にしたまま、怒りと羞恥で瞳を潤ませている。マヒロはまだ状況が飲み込めていないのか、きょとんとした顔で二人を見比べていた。

 

 ああ、せっかくの久しぶりの長風呂が……。なんで自分はいつもこうなるのだろうか。 湯気の立ち込める風呂場に、僕の情けない呻き声とミオの怒声、そしてマヒロののんびりした「でござる」が響き渡った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。