転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ーおまけ3

 「いててて……。くそ、まだ痛ぇ……」

 

 風呂上がり。

 

 せっかく久しぶりの湯船を満喫していたというのに、最後の最後で台無しになってしまった。

 

 鼻の頭をさすりながら、自分は調理場へと足を運ぶ。

 

 あの騒動のせいで、すっかり気分も吹き飛んでしまった。

 

 せめて風呂上がりの一杯くらいは楽しみたい。

 

 そう思い、冷蔵庫から牛乳瓶を取り出した。

 

 「ふう……」

 

 栓を抜き、一気に喉へ流し込む。

 

 冷たい牛乳が身体の奥へ染み渡っていく。

 

 やはり風呂上がりはこれに限る。

 

 酒よりよほど美味い。

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

 「ん?」

 

 視界の端に人影が映る。

 

 長い黒髪。

 

 見慣れた後ろ姿。

 

 マヒロだった。

 

 風呂上がりらしく、まだ髪は少し湿っている。

 

 彼女はそのまま調理場を横切り、教会の出口へ向かって歩いていった。

 

 「……何してるんだ?」

 

 思わず呟く。

 

 そういえば彼女はこの村へ来たばかりだ。

 

 土地勘もないはずである。

 

 それなのに迷いなく外へ向かっている。

 

 少しだけ気になった。

 

 あの後、彼女は風呂場で倒れた自分の世話までしてくれた。

 

 おかげで助かったのは事実だ。

 

 だからという訳ではないが――。

 

 夜遅くに見知らぬ土地を一人で歩かせるのも少し心配だった。

 

 もちろん彼女は強い。

 

 並の魔物程度なら問題なく倒せるだろう。

 

 それでも何が起きるか分からない。

 

 「……仕方ない」

 

 誰に言い訳するでもなく呟く。

 

 別に深い意味はない。

 

 客人の様子を見に行くだけだ。

 

 そう自分に言い聞かせながら、後を追うことにした。

 

 調理場を出る頃には、既に彼女は教会の外へ向かっていた。

 

 「どこ行く気なんだ?」

 

 少し足早に廊下を進む。

 

 夜の教会は静かだった。

 

 昼間は賑やかな場所も、今は物音一つしない。

 

 聞こえるのは自分の足音だけ。

 

 やがて入口へ辿り着き、扉を開いた。

 

 すると――。

 

 「ん~~~っ!!」

 

 「うおっ!?」

 

 すぐ目の前で大きく背伸びをしているマヒロの姿があった。

 

 あまりにも近くにいたせいで思わず声が漏れる。

 

 マヒロもこちらに気付いたらしく、ゆっくりと振り返った。

 

 「ん? おろ? サダメではござらぬか」

 

 「びっくりした……」

 

 てっきり外へ出てしまったものだと思っていた。

 

 だが彼女はまだ教会の入口付近にいたらしい。

 

 夜風が吹き込み、彼女の髪を静かに揺らしている。

 

 「何してるんだ?」

 

 「何をしておるのでござるか、とは?」

 

 「いや、こんな時間にどこか行くのかと思ってさ」

 

 「どこへ行くという訳でもないでござるよ」

 

 マヒロは肩を竦める。

 

 「少し外の空気を吸いたくなっただけでござる」

 

 「なるほど」

 

 風呂上がりなら分からなくもない。

 

 自分もたまに夜風に当たりたくなることはある。

 

 だがマヒロはそこで言葉を切り、ふと何かを思いついたように目を細めた。

 

 「うむ」

 

 「?」

 

 「それも悪くないでござるな」

 

 「何がだ?」

 

 意味が分からず首を傾げる。

 

 しかしマヒロは答えず、小さく笑みを浮かべた。

 

 そして――。

 

 「サダメ」

 

 「ん?」

 

 「良ければ拙者と共に外を歩かぬか?」

 

 「……は?」

 

 予想もしなかった誘いだった。

 

 突然の言葉に思考が止まる。

 

 夜風が静かに吹き抜ける中、マヒロは返事を待つようにこちらを見つめていた。

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