「おー! 綺麗な景色でござるな、サダメー!?」
「……あ、ああ。そうだな」
村はずれの高台にある古い木製の展望台。魔物襲来を監視するための施設だったものが、今では村を一望できる人気のデートスポットになっていた。夜の村は無数の灯りが灯り、星空と溶け合うように美しく輝いている。
マヒロに「いい景色が見える場所」をリクエストされ、案内してきたはいいが……こうして二人きりで夜景を眺めていると、完全にデートという空気になってしまっていた。胸の鼓動がうるさい。落ち着け、俺。ただ景色を見に来ただけだろ……。
展望台に上がると、涼しい夜風が頰を撫でた。村の人々が楽しげに笑い合う声が、遠くからかすかに聞こえてくる。
「皆、楽しそうでござるな……」
マヒロは手すりに寄りかかり、瞳を輝かせて村の灯りを眺めていた。子供のように純粋な笑顔。普段は武士然とした彼女の、そんな無邪気な横顔に思わず見とれてしまう。
飲んだくれの笑い声や、家族の団欒、恋人同士が寄り添う姿を見て、彼女はどこか羨ましそうに目を細めていた。酒が好きなのか、それともただ「楽しそう」という情景そのものが嬉しいのかはわからない。でもその横顔は、いつもより大人びて見えた。
「ッ!? な、なあ。ちょっと冷えてきたし、そろそろ戻ろうか……」
夜風がだんだん冷たくなり、風呂上がりの身体が震えそうになった。夏とはいえ高台の風は強く、このまま長居すると風邪を引くかもしれない。教会に戻ろうと声をかけようとしたその時——
「サダメ」
「……!? な、なに?」
不意に名前を呼ばれ、心臓が跳ね上がった。いつもより低く、艶のある声色。思わず振り向くと、マヒロがゆっくりとこちらを向いていた。
夜風に揺れる艶やかな黒髪。火照ったような頰。潤んだ瞳と、わずかに開いた柔らかそうな唇。展望台の灯りと月明かりが彼女の白い肌を優しく照らし、まるで大人の女性のような色気が漂っている。普段の無邪気さと戦士の強さが溶け合い、今この瞬間にだけ輝く特別な美しさだった。
「サダメ、実は拙者……サダメに頼みがあったのでござる」
「え、えぇ……?」
彼女はゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。距離が縮まるにつれ、心臓の音がますます大きくなっていく。頼み? この状況で? まさか……。
「サダメ、拙者と……」
「ちょ、ちょっと待っ……」
期待と動揺が交錯する。頭の中が真っ白になりながらも、どこかで「まさか本当に……?」という淡い期待が膨らんでいた。このシチュエーションで「頼み」と言われたら、普通は一つしか思い浮かばない。 マヒロはもう一歩近づき、わずかに顔を上げてこちらを見つめた。傷跡の残る白い肩が月光に照らされ、儚げで、それでいて強く美しい。
「接吻してくれぬか?」