転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第8章ーおまけ9

 「……あんた、それをどこで知ったんだ?」

 

 ミスエル団長の発言に、背筋が凍りついた。

 

 俺の素性を知っているのは理事長だけだ。そして、その理事長が他人の秘密を軽々しく口にするような人間ではないことも分かっている。

 

 団長殿の魔法は特殊だが、他人の過去を覗き見るような能力ではなかったはずだ。

 

 ならば、どこから漏れた?

 

 胸の奥に湧き上がる不安を押し殺しながら、俺は普段よりも強い口調で問い詰めた。

 

 「そんな怖い顔をなさらないでください。ただの直観ですよ」

 

 「直観? そんな曖昧な答えで『そうなんですか』って納得すると思ってんのか?」

 

 「……アサヒ君」

 

 理事長が窘めるように俺の名を呼ぶ。

 

 自分では冷静を装っているつもりだった。だが、思っていた以上に動揺していたらしい。顔に怒りが滲み出ていたのだろう。

 

 「……はあ。冗談ですよ、冗談。すいませんね。んで? なんの話でしたっけ?」

 

 大きく息を吐き、無理やり気持ちを切り替える。

 

 冷静に考えてみれば、俺の素性が知られたところで大した問題ではない。

 

 今更その事実が明るみに出たところで失うものはほとんどないし、何より団長殿は口の軽い人物には見えなかった。

 

 少なくとも、面白半分で他人の秘密を吹聴するような人ではないだろう。

 

 ならば、この件はこれ以上追及しても仕方がない。

 

 そう結論づけた俺は、話を本題へ戻した。

 

 ◇

 

 「……と、いうわけなのですが」

 

 「んー。聞いた限りだと、今回の件と前回の件は同一犯で間違いなさそうですね。ただ、以前に比べてだいぶ強くなっている。前の奴は魔導結界なんて使えなかったでしょうし」

 

 「サダメ君達もそんな輩を相手によく生き残ったものだ。誰かの教えが良かったのかな?」

 

 「数か月鍛錬した程度で十死怪レベルの化け物と対等に戦えるわけねーっすよ。あいつらがあいつらなりに頑張った結果です。そこは素直に認めてやってください」

 

 「そういうのは本人達に直接伝えてみたらどうだい?」

 

 「ガラにもねーことする気は毛頭ないっすよ」

 

 それから団長殿は、騎士団員や冒険者、生徒達から集めた情報をまとめた報告書を元に説明を続けた。

 

 今回の事件と十年前の事件は同一犯によるもの。

 

 その見解はほぼ確定らしい。

 

 ただし、奴は当時とは比べ物にならないほど強くなっていた。

 

 十死怪とは名ばかりの半端者だった頃と違い、今では魔導結界すら扱う。

 

 放置していれば、いずれ国家規模の脅威になっていたかもしれない。

 

 だが、そんな怪物をレールステン達は打ち倒した。

 

 その辺の冒険者では歯が立たないような強敵相手に、最後まで抗い続け、勝利を掴み取ったのだ。

 

 学園での日々。

 

 数々の試験。

 

 血の滲むような鍛錬。

 

 積み重ねてきた努力が、確かな力となって実を結んだ結果だった。

 

 きっとあいつらは、この学園を卒業する頃にはとんでもない連中になっているだろう。

 

 そんな未来が容易に想像できた。

 

 「そうですか。貴重なご意見をいただき、感謝いたします」

 

 「これで用件は終わりっすか?」

 

 「ええ。わざわざお時間を割いてくださり誠に感謝いたします。それでは私はこれにて。失礼」

 

 「帰りの道中はお気をつけて」

 

 用件を終えた団長殿は席を立ち、部屋の出口へ向かう。

 

 わざわざ足を運んできた割には、本当に報告だけだったらしい。

 

 真面目なのか不真面目なのか、よく分からない人だ。

 

 もっとも、俺の素性について深く追及しなかったのも、あの人なりの配慮だったのかもしれないが。

 

 「あっ。最後に一つだけ」

 

 「ん?」

 

 扉に手をかけた団長殿が、不意に足を止めた。

 

 まだ何かあるのだろうか。

 

 そう思った次の瞬間。

 

 「その、直観というのは本当の話なんです」

 

 背中を向けたまま、静かな声が響く。

 

 「貴方自身はどう思っているのか分かりません。ですが、私から見れば貴方は昔と何も変わっていない」

 

 心臓が大きく跳ねた。

 

 「だから学園でお会いした時に気づけた。それだけのことです」

 

 そこで言葉を区切ると、団長殿は軽く会釈した。

 

 振り返ることはない。

 

 まるで、それ以上を語るつもりはないと言わんばかりに。

 

 「では」

 

 短い別れの言葉を残し、彼は部屋を後にした。

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