「はあ……はあ……」
「オラ、死ねや……!」
「はあっ!」
「ぐわあっ!?」
「っ?! こ、このガキ……本当にただの子どもか?」
魔物との戦いが始まって、どれほどの時間が経ったのか。体感では一時間以上戦い続けているように思える。実際はもっと短いのだろうが、それほどまでに体力を削られていた。肺が焼けるように熱く、息を吸うたび胸が痛む。
これまでに何体の魔物を斬り倒しただろう。二十、三十……それ以上かもしれない。だが、いくら倒しても数が減っている実感がない。まるで底なし沼だ。
「落ち着け! 相手は一人だ! ただのガキじゃねぇが、数で押し切りゃ殺せない相手じゃねぇ! 囲んで潰せ!!」
「うおおおおおお!!」
「くっ!?」
魔物たちは勢いを失わず、一斉に襲いかかってくる。今度は五、六体が同時に迫ってきた。これまでは上手く一対一に持ち込み、確実に仕留めてきたが、複数を相手取るのは危険すぎる。
「ん゛っ!!」
「なっ!?」
完全に包囲される前に、脱兎跳躍で宙へ逃れる。間一髪で包囲網を抜けたが、これで“複数戦を避けている”ことを悟られただろう。
「ちっ、やり損ねたか」
「だがよ、あのガキ……ビビってやがるぞ」
「ああ。このまま押せばいける!」
「くそっ……!」
案の定、見抜かれた。
どうする。いったん距離を取るか?
だが、仲間たちの状況が分からない。魔障結界はまだ解けていない。作戦が失敗している可能性もある。ならば――
自分が囮になり続けるしかない。
こいつらの注意を引きつけ、他へ向かわせない。それが自分の役目だ。
……だが。
ミオは無事か?
ラエルたちは?
嫌な想像が頭をよぎる。確認したい衝動が胸を突く。
――ダメだ。信じろ。今は目の前の敵に集中しろ。
「よし、もう一度囲め!!」
「っ?! しまった!」
考えごとをした一瞬が致命的だった。
着地した瞬間、背後に気配。前方からも殺気が迫る。
――逃げ場がない。
背後の敵を斬って突破するか?
いや、間に合わない。よくて相討ち。
前方へ突っ込むにも、体勢が整っていない。
「ははっ、とっとと死にやがれ!!」
「……くそっ」
間に合わない。
ここで終わるのか。
ようやく掴んだ生きる意味も、ここまで――
「――うおっ?!」
「っ?! なんだ、今の音は!?」
「……?」
その瞬間。
どこか遠くから、空気を引き裂くような轟音が響いた。
魔物たちの動きが止まる。
ざわめきが広がり、皆が周囲を見回し始める。
自分も何が起きたのか理解できず、思考が一瞬止まった。
――今の音は、何だ?
「お、おい! あそこ……竜巻が出てるぞ!!」
「はあ?! 何言ってやがる!」
「いや、俺も分かんねぇ! けど、ほら、あそこだ!!」
「っ!?」
指さされた方向へ視線を向ける。
そこにあったのは――天へ届きそうなほど立ち上る巨大な竜巻。
規模は異常。
この村で自然発生するはずがない。
「……まさか、ミオが……」
思わず声が漏れた。
あの方角には、魔造種の貯蔵庫があったはず。
タイミングも一致する。
――儀式の破壊に成功したのか?
いや、それにしても派手すぎるだろ……。
「だ、誰か状況を確認しろ――」
「はあっ!?」
「ぐわあっ!?」
「っ?! しまった、あのガキが逃げたぞ!!」
「追え!! 逃がすな!!!」
混乱の隙を突き、目の前の魔物を一体斬り伏せる。
そして脱兎跳躍で一気に包囲を突破した。
囮の役目は、もう終わった。
魔障結界も、じきに解けるだろう。
――ミオが危ない。
あの竜巻の中心にいるのが彼女なら、無事で済むはずがない。
「待ってろよ、ミオ! 今、助けに行く!!」
夜を裂く風の轟音へ向かい、全力で駆け出した。